滋賀医科大学 分子診断病理学部門

アルコール多飲歴があり低ナトリウム血症を来たして入院後急死した症例

公立甲賀病院 臨床研修医:山名正昭
同内科:八木勇紀南部卓三
同検査部:山本昌弘
滋賀医科大学病理学講座分子診断病理学部門:
萩原恭史杉原洋行

A case of heavy drinker with hyponatremia culminating in sudden death soon after hospitalization

Masaaki Yamana 1), Yuhki Yagi 2), Takuzo Nambu 2), Masahiro Yamamoto 3), Tadashi Hagiwara 4), Hiroyuki Sugihara 4)

1) Junior resident, Kohka Public Hospital
2) Department of Internal Medicine, Kohka Public Hospital
3) Depertment of Central Clinical Laboratory, Kohka Public Hospital
4) Division of Molecular and Diagnostic Pathology, Department of Pathology, Shiga University of Medical Science

要旨

50才代前半の男性。主訴は頭痛と振戦。最後の入院の約2年前に頭痛を自覚。当院脳外科を受診し、CT・MRIで精査したが原因は不明であった。入院前日に頭痛が悪化し、手の震えと嘔気嘔吐も出現したため来院した。日常的に十分な食事を摂らずアルコールを多飲していたという。血液検査で肝機能異常と低ナトリウム血症を認め、ビタミンB1欠乏症を伴うアルコール性肝炎が疑われ、同日内科に入院した。電解質補正とビタミン補給を始めた矢先、翌朝に心肺停止状態で発見され、心肺蘇生を試みたが回復せず永眠された。剖検ではアルコール性心筋症、脂肪性肝炎、偽嚢胞を伴う慢性膵炎、ウェルニッケ脳症に加え、肺うっ血・水腫が見られ、アルコール性心筋症から心不全が潜在し、更に不整脈を来たして死亡したと考えられた。低ナトリウム血症や急死を来たした背景の病態について、考察しCPCでの討議とともに報告する。

[Abstract]
A male in his early fifties complained of headache and tremor. Since about 2 years before his last hospitalization, he noticed headache and consulted the department of neurosurgery in our hospital. But CT and MRI studies failed to specify its cause. One day before his last hospitalization, his headache exacerbated and tremor and nausea/vomitting appeared, and then he consulted our hospital. He had been daily heavy drinker without sufficient food intake. Laboratory tests revealed abnormalities in hepatic function and hyponatremia. He was hospitalized immediately since alcoholic liver injury with vitamin B1 deficiency was suspected. He received infusion for correction of electrolytes composition and vitamin supplementation. In the next morning, he was found in a state of cardiopulmonary arrest and was not respond to resuscitation. Autopsy revealed moderate congestion and edema of lungs as well as alcoholic cardiomyopathy, steatohepatitis, chronic pancreatitis with a pseudocyst and Welniche encepholopathy. It was inferred that latent heart failure in the background of alcoholic cardiomyopathy and malnutrition was exacerbated suddenly by arrhythmia. Here we report the discussion at CPC and consideration on the pathophysiologic background of hyponatremia and sudden death in this case.

Key words: alcoholic cardiomyopathy, hyponatremia, acute heart failure

はじめに

今回提示するのは、栄養障害を伴った典型的なアルコール多飲者で、臓器障害発症時に低ナトリウム血症を来たし、入院加療を始めた矢先に急死に至った症例である。臨床診断は困難であったが、病理解剖所見からアルコールによる臓器障害と、死に至る病態の一端が明らかになった。本症例のCPC研修を通して、筆者は臨床経過、画像所見と病理解剖所見の全てをまとめる機会を与えられた。CPCでの討議を踏まえ、剖検所見から推定される死に至った経過を考察した。

臨床経過

50才代前半の男性。某年7月頃より頭痛を自覚していた。当院脳外科を受診し、CT・MRIで精査したが原因は判明しなかった。市販薬内服で様子を見ていたが、2年後の8月に頭痛と手の震えが悪化し、嘔気・嘔吐も出てきたため、悪化翌日に来院した。日常的に十分な食事を摂らずアルコールを多飲していたという。来院時低ナトリウム血症(121.2 mEq/L)が認められ、またアルコール性肝炎に伴うビタミンB1欠乏症も疑われたため、同日16時台に内科に入院した。同年2月に爪楊枝誤飲による上行結腸穿孔の手術を受けた際、入院時に著明な低アルブミン血症(2.4 g/dL)と低ナトリウム血症(124.3 mEq/L)があった。その他の既往歴に虫垂炎(術後)、高血圧・糖尿病があり、高血圧に対しカルシウム拮抗薬、糖尿病に対しビグアナイド系経口血糖降下薬を内服中であった。家族歴に特記事項はなかった。喫煙20 本/日、飲酒(ビール)4-5 本/日とのことである。

図1: 入院時の胸腹部CT。A.胸部で心肥大が見られる。B.腹部で肝実質のdensityが肝内の血管、大動脈や脾臓のdensityよりも低い。

入院時の身体所見は身長172 cm、体重84 kg。意識は清明。体温35.7 ℃、血圧159/105 mmHg、脈拍113 bpmで整であった。頭痛あり、嘔気あり、上腹部痛あり、手指振戦あり、下肢脱力感なし、歩行時ふらつきなしであった。心電図は洞性頻脈。来院時血液検査所見を表1に、CTを図1に示す。入院時のCTでは肝実質は肝内の血管、大動脈や脾臓よりも低濃度であり、脂肪肝の所見であった。両下肺野にはスリガラス状陰影および両上葉も肺気腫像が認められた。胸水・腹水は認めなかった。血液検査データからは、白血球増多、γGTPの高度増加とAST/ALT比が2近いことからアルコール性肝炎が考えられ、アルブミンが正常下限、BUNの異常低値は栄養障害の可能性も示していた。

入院後、ビタミン補給(ビタミンB1、B6、B12混合薬)、電解質補正のため輸液(酢酸リンゲル液)計2 Lとセフェム系抗生剤投与を行なった。入院翌朝8時57分ごろに心肺停止状態で発見された。8時30分には看護師による巡視がなされており、会話もあり、新たな訴えはなかったという。心肺蘇生を施行したが反応がみられず、死亡確認となった。

短期間で病態が急変したことから、心筋梗塞、アルコール性心筋症、衝心脚気、慢性膵炎の急性増悪、頭蓋内出血性疾患等が考えられた。死因を明らかにするため、病理解剖をご遺族に提案し、受諾をいただいた。

病理解剖所見

左肺は650 g、右肺は730 gで暗赤色調が両下葉に強かった。組織では、両上葉に肺気腫、中葉に肺出血が見られた。両下葉はうっ血、水腫が目立ち、一部に硝子膜形成が見られた。

心臓は620 gと重量が約2倍に増加、外膜の脂肪組織による肥厚が目立ち、両心室・心房の拡張を認め、左室肥大と両心不全の所見であった(図2A)。右室壁の脂肪浸潤も目立ち(図2B)、栄養障害を示唆していた。冠動脈の左起始部と右起始部から約2 cmに硬化を認めたが狭窄はなく、心筋にも新鮮または陳旧性梗塞の所見は認めなかった。心筋は、全周性に心内膜側が心外膜側に比べて肉眼的に白く、その部分の組織では、心筋細胞の萎縮と細胞間および血管周囲の線維化が見られた(図2C)。

図2:
A. 心臓の割面。心外膜が脂肪で著明に肥厚し、左室内膜下の心筋が蒼白である。
B. 組織標本のルーペ像。両室拡大、右室壁の脂肪浸潤が強い。
C. 心内膜下では、心筋の萎縮と筋線維間の線維化が見られる。アザン染色。

肝臓は3030 gと重量が約2倍に増加し、うっ血があり、割面は黄色調が強く、腫瘤や明らかな肝内胆管の拡張は認めなかった。肝表面は平滑で、肝硬変所見はなかった。組織では(図3)、肝細胞の大多数に大小の脂肪滴が見られ、マロリー体、好中球浸潤。門脈と中心静脈を結ぶ線維化(Portal-central bridging)が見られた。以上の組織像はアルコール性脂肪肝炎に合致した。

図3:
A. 門脈域(p)と中心静脈周囲(c)との架橋線維化。アザン染色。
B. マロリー体(矢印)、
C. マロリー体に反応して見られる好中球浸潤。

腎臓は左/右 170/190 g。循環不全では、皮質うっ血・髄質乏血がみられ皮髄境界が明瞭になるが、この症例では皮髄境界は不明瞭であった。皮質髄質ともにうっ血が認められたことから、急性右心不全によると考えられた。糸球体に糖尿病性変化は見られなかった。

膵臓は180 g。一部に実質細胞の軽度の萎縮と線維化、膵管壁の線維性肥厚が見られた。膵管の拡張および膵管内に蛋白栓は認めなかった。膵体部に、長径1 cmの偽嚢胞形成を伴う脂肪壊死がみられ、組織では線維性被膜が形成されていた(図4)。

図4:
A. 膵体部の偽嚢胞。
B. 脂肪壊死と好中球浸潤。
C. 横向きに走る膠原線維腺の上に腺房の軽度萎縮、下に正常の腺房が見られる。

大脳は1220 gで脳表面、割面ともに出血や梗塞はなかった。Wernicke脳症のほぼ全例に見られる1)乳頭体の両側性萎縮(図5A, B)、その組織では神経細胞の脱落、壊死が見られた(図5E)。動眼神経核にも神経細胞の変性(central chromatolysis) と脱落が見られた(図5G)。

図5: A、B、E、Gが本症例、C、D、F、Hが年齢の近いコントロールの乳頭体(矢印)レベルでの大脳割面。本例の乳頭体(B、E)はコントロール(D、F)と比べると、両側性に萎縮している。Eでは神経細胞のnecrosisも見られた。本例の動眼神経核(G)はコントロール(H)に比べて細胞密度が低下し、神経細胞のcentral chromatolysis(矢印)とglyosis(点線の円)が散見される。

考察

アルコール性心筋症とは、アルコールおよびその代謝産物アセトアルデヒドの直接的な影響で心筋細胞がびまん性に萎縮し、線維化することで心収縮力が低下する疾患である2)。アルコール依存症患者の1%がこの疾患を発症すると言われている3)。アルコール性心筋症では形態的に左右心室および心房の拡張と(アルコール性高血圧による左)心室の肥大が認められるが、特異的所見はあまりなく、アルコール多飲と他に心疾患の原因がないことから診断されることが多く、その発生メカニズムはまだ十分明らかにされていない。

この症例の心臓の病理所見では、心筋梗塞のような急変を来たす心疾患はなく、左室肥大、両心拡張と心筋細胞周囲の線維化が見られ、アルコール性心筋症として矛盾しなかった。今回の突然死はアルコール性心筋症を背景に、おそらく不整脈が起こり、それに続発する急性心不全が直接の死因と考えられる。アルコール性心筋症では、拡張型心筋症と同様の頻度で不整脈が起こることが知られている。最も多いのは心房細動である4)が、心室性の不整脈も起こり得、特にQTの延長がアルコールの多飲では有意に増加するとも報告されている5)。ただ、心室性の不整脈による文字通り突然の死であれば、肺うっ血は起こらないが、この症例では肺重量が650/730 gと増加し、特にうっ血の影響を最も受ける両肺下葉に硝子膜を伴う肺水腫が見られた。また腎にも循環不全で見られる血流再分布がなく、右心不全のうっ血パターンであった。このような両心不全が急速に起こる場合として、例えば頻拍を伴う心房細動が考えられる。頻拍による心拍出量の減少があると、心房細動は心房への血流の流入障害を助長し、急速に肺と全身のうっ血・水腫に至ると考えられる。更に肺水腫による換気の低下が細動脈の収縮を来すとともに、肺組織圧の上昇により気管支動脈血の流入が抑えられ、虚血によって硝子膜が生じたのではないかと考えられる。うっ血が急速に起こった背景には、もともとうっ血性心不全が潜伏していた可能性がある。

その可能性を支持する所見の一つに、約半年前の入院時には改善していたアルコール性臓器障害と栄養障害が悪化した状態で今回入院されたことがある。AST/ALTとγ-GTPは、2月の前回入院時には、それぞれ、75/82 IU/L、320 IU/Lと高値であったが、3月までの入院中にはいずれもほぼ正常化していた。入院時は飲酒できなかったためと考えられる。今回の入院時には、それぞれ150/83 IU/L、809 IU/Lと悪化しており、退院後に飲酒量が増えたことによると考えられた。実際、剖検時の肝臓は肝細胞の脂肪化が強く、マロリー体や好中球浸潤も目立ち、最近まで飲酒が続いていたことを示唆する典型的なアルコール性脂肪肝炎の像を呈していた。この状況では、肝障害と平行して心筋症も悪化していたであろう。入院時の頻脈もそれを反映していた可能性がある。

2月の入院時に既に低アルブミン血症(2.6 g/dL)があり、十分な食事を摂らず、ほとんど飲酒だけの生活が続いたことによる栄養障害の反映と考えられる。また同時に低ナトリウム血症(124.3 mEq/L)があった。これには心筋障害と栄養障害の両方が関わっていると考えられる。つまり、心不全による有効循環血液量の低下はADHの分泌を亢進させ、低ナトリウム血症を来たすが、血液中のアルブミン量の低下は膠質浸透圧の低下から浮腫などによって更に循環血液量を低下させ、その傾向に拍車をかけるからである。前回入院中、術後3週でアルブミンが3.2 g/dL、Naは143.2 mEq/Lまで回復したことからも、この症例の低アルブミン血症に肝の器質的障害はあまり寄与していないと考えられる。

アルコール性心筋症の悪化以外に、心不全につながる他の要因として、アルコール多飲に伴う低栄養状態でしばしばみられる、ビタミンB1欠乏がある。剖検でWenicke脳症があったことは、その原因としてビタミンB1欠乏があったことを示している6)。Wernicke脳症は、この症例の様に、定型的な症状(眼球運動障害、運動失調、コルサコフ症候群)を示さず、剖検で初めて発見されることも少なくない7)。今回の入院時には、アルコール性心筋症の悪化による(低拍出性)心不全に、ビタミンB1欠乏の悪化から衝心脚気による高拍出性心不全の要素が加わった形で心不全が潜在していた可能性がある。

ここで問題は、何が最後に不整脈を誘発したかである。今回の入院時にはアルブミン4.1 g/dL、Na 121.2 mEq/Lであった。入院前に患者は嘔吐しており、Naなど電解質とBUN(2.0 mg/dL)が異常低値である以外、検査値は軒並み上昇していたことから(表1)、retrospectiveには、今回入院時に脱水と低栄養の状態であったと考えられ、低アルブミン血症や、おそらくうっ血性心不全もマスクされていたと考えられる。実際、入院後の輸液により、蘇生時にはNaは130 mEq/Lとまだ低いものの改善傾向を示す一方、アルブミンは3.0 g/dLに低下していた。CPCでは、輸液が心不全を悪化させ、不整脈を誘発した可能性も指摘された。看護師の巡視後30以内の死亡であったが、解剖所見から想定される心房性不整脈を伴う心不全の悪化は巡視以前から存在していたと考えられ、最後に心室性不整脈に至ったのではないだろうか。

表1

他にアルコールの影響が見られたのは膵臓である。臨床症状やアミラーゼの高値はなかったが、病理組織学的に軽度の慢性膵炎像と偽嚢胞形成を伴う脂肪壊死が認められ、アルコールによる慢性膵炎の急性増悪が起こっていたと考えられる。急性膵炎でもアミラーゼ高値が見られず、剖検で初めて確認されることもある8)。しかし、偽嚢胞に明らかな線維性被膜が存在していたことから、脂肪壊死が生じたのは1週間以上前であり、死因とは関係ないと考えられた。

まとめ

振り返ってみると今回の症例は、十分な食事を摂らず典型的な大酒家の生活を続けた結果、アルコールと低栄養による臓器障害で発症し、入院加療を開始した矢先に、自然経過に近い状況で急死に至ったと考えられる。剖検ではほぼ典型的なアルコールと低栄養による臓器障害が肝、心、脳、膵に見られたが、肝臓は肝硬変には至っておらず、心筋のリモデリングや線維化も比較的軽度の状態で、臓器障害がある程度可逆的な段階で不整脈により急死されたと考えられた。その主な原因は入院前までアルコールを飲み続けたことにあると推測される。断酒しない場合のアルコール性心筋症の5年生存率は48%しかなく、拡張型心筋症より有意に低い。しかし、断酒することにより心筋症並みの81%まで上がるという9)。死亡半年前の入院中、肝機能が著明に改善していたことを考えても、自覚症状が少なくアルコールによる器質的臓器障害が軽い段階では、断酒さえできれば、かなり回復できる余地があることを、この症例はあらためて教えてくれているのであろう。

文献

  1. Victor M, Adams RA, Collins GH. The Wernicke-Korsakoff syndrome and related disorders due to alcoholism and malnutrition. FA Davis, Philadelphia, 1989.
  2. Patel VB, Why HJ, Richerdson PJ, et al. The effects of alcohol on the heart. Adverse Drug React Toxicol Rev. 16: 15-43, 1997.
  3. 小出直:アルコールの心・血管系への影響. CLINICIAN 396: 1070-1074, 1990.
  4. Frost L, Vestergaard P. Alcohol and risk of atrial fibrillation or flutter: a cohort study. Arch Intern Med 164: 1993-1998, 2004.
  5. Corovi N, Durakovi Z, Misigoj-Durakovi M. Dispersion of the corrected QT and JT interval in the electrocardiogram of alcoholic patients. Alcohol Clin Exp Res 30: 150-154. 2006.
  6. Martin PR, Singleton CK, Hiller-Sturmhöfel S. The role of thiamine deficiency in alcoholic brain disease. Alcohol Res Health. 27: 134-142, 2003.
  7. Harper C. The incidence of Wernicke’s encephalopathy in Australia–a neuropathological study of 131 cases. J Neurol Neurosurg Psychiatry 46: 593-598, 1983.
  8. Toouli J, Brooke-Smith M, Bassi C et al. Working party report: Guidelines for the management of acute pancreatitis. J Gastroenterol Hepatol 17:S15-39, 2002.
  9. Prazak P, Pfisterer M, Osswald S et al. Differences of disease progression in congestive heart failure due to alcoholic as compared to idiopathic dilated cardiomyopathy. Eur Heart J 17: 251-257, 1996.