滋賀医科大学 分子診断病理学部門

左片麻痺で発症した脳梗塞の一例

A case of brain infraction that demonstrated left hemiplegia at onset

公立甲賀病院 臨床研修医: 井上 明星
同内科: 山田 衆
同中央検査室: 山本 昌弘
滋賀医科大学 病理学講座 分子診断病理学部門:
杉原 洋行

Akitoshi Inoue 1, Shu Yamada 2, Masahiro Yamamoto 3, Hiroyuki Sugihara 4
1 Junior Resident, Kohka Public Hospital
2 Department of Internal Medicine, Kohka Public Hospital
3 Department of Central Clinical Laboratory, Kohka Public Hospital
4 Department of Pathology, Shiga University of Medical Science

Key words : brain infarction, magnetic resonance imaging, time course

はじめに

今回提示するのは脳梗塞を発症し、経過中に大葉性肺炎を併発し敗血症により永眠された症例である。本症例のCPC研修を通じて、筆者は本症例の臨床経過、画像所見と病理解剖所見の全てをまとめる機会を与えられた。ここでは、CPCでの討議を踏まえ、剖検所見から振り返って死に至った経過を明らかにするとともに、特に脳のMRI画像が何を反映しているかを、画像と組織像とを対比することによって改めて考えてみた。

A man in his 80’s complained of left hemiplegia, dysphagia and dysarthria. Four days after he had fallen at home, he was transported by ambulance to our hospital due to gradually progressive muscle weakness on the left side of the body. He was diagnosed as having brain infarction in the territory of the right middle cerebral artery based on neurological findings and computed tomography. He was hospitalized under the medical treatment for brain infarction. On the 16th day of the hospitalization, he developed a fever. Since blood chemistry demonstrated inflammatory reaction and the elevation of biliary enzymes, we suspected a biliary tract infection, and administrated antibiotics intravenously. On the 17th day of hospitalization, the patient died.

Autopsy disclosed lobar pneumonia in the right lower lobe and the absence of fatal biliary tract infection. The pneumonia may have induced sepsis and was considered as the direct cause of death. Examination of the fixed brain demonstrated revealed many acute and subacute infarcts. Here we report temporal changes of the infarcts by comparing the histological findings at autopsy to the corresponding magnetic resonance images taken on the 4th day of hospitalization.

臨床経過

80歳代男性。某日未明に自宅のトイレの前で転倒した。暫くは歩行可能であったが、午後から左足の動きが悪く、歩行困難となった。4日後には起き上がることすら出来なくなり、救急搬送となった。来院時の主訴は左片麻痺、嚥下障害であった。既往歴に両側白内障(術後)、高血圧(内服加療中)、前立腺肥大症(内服加療中)があった。1年前に左足の感覚低下といったTIAを疑わせるエピソードがあった。家族歴に特記事項はなかった。飲酒歴、喫煙歴はなかった。高血圧に対し、カルシウム拮抗薬とβブロッカー、前立腺肥大症に対してα1ブロッカーと抗コリン薬を内服中であった。

初診時の身体所見は身長160 cm、体重63 kg、BMI 24.6。意識は清明。体温36.2 ℃、血圧174 / 99 mmHg、脈拍66 /分で整であった。眼瞼結膜に貧血なし。眼球結膜に黄疸なし。呼吸音は清、心雑音を聴取しなかった。腹部は平坦、軟、圧痛なく、腫瘤を触知しなかった。神経学的異常として、左上下肢に軽度筋力低下を認めた。左上下肢では右と比べ深部腱反射が亢進していた。構音障害があったが、筆談での意思疎通は可能であった。以上の神経学的所見及び突然発症したことから、脳血管障害による左半身不全麻痺、嚥下障害が考えられた。また責任病巣として右錐体路及び延髄が疑われた。来院時の血液検査所見を表1に示す。

表1:来院時血液検査

来院時に撮影された頭部CT(図1)では、右中大脳動脈領域主体に広範な低吸収を認めた。右大脳の錐体路が梗塞となり、左片麻痺が生じたと考えた。体動によるアーチファクトのため延髄の評価は困難であった。神経学的所見及び頭部CT所見より右中大脳動脈領域の脳梗塞が疑われ、脳梗塞の加療目的で当院内科入院となった。脳梗塞に対してオザグレルナトリウム(トロンボキサン合成酵素阻害薬)、エダラボン(フリーラジカル消去剤)を点滴投与が行われた。 また嚥下障害のため絶食とし、末梢輸液が行われた。入院4日目に撮影された頭部MRIを図2に示す。拡散強調像で右側頭葉から後頭葉の皮質から深部白質にかけて広範且つ著明な高信号を認めた。右島、右帯状回、右中前頭回、右放線冠にも斑状の強い高信号が分布していた。それぞれの信号強度は部位により僅かな差異が見られたが、T1強調像で大脳白質より低信号、T2強調像で軽度の高信号を呈していた。

図1:初診時の頭部CT
図2:入院4日目の頭部MRI(左からT1強調像、T2強調像、拡散強調像)

入院16日目にWBC 9300 /μL、AST 129 IU/L、ALT 235 IU/L、ALP 470 IU/L、γ-GTP 181 IU/L、総ビリルビン2.4 mg/dL、CRP 4.63 mg/dLと炎症反応、肝胆道系酵素の上昇が見られた。薬剤性発熱も考えられ、オザグレルナトリウム、エダラボンを中止した。胆道系感染が疑われ、セフォペラゾン/スルバクタム(第3世代セフェム系抗生物質とβラクタマーゼ阻害剤の合剤)の静脈投与を開始。腹部造影CTでは胆道感染を疑う所見を認めなかったが、少量の胸水が存在していた。尿量は約1200 mL/日であったが、BUN 45.3 mg/dL、CRE 3.51 mg/dLと腎機能障害を示唆する結果を得た。収縮期血圧は触診法で60 mmHgであり、敗血症性ショックが疑われた。この時、厚生省DIC診断基準に基づくスコア(表2)は、
基礎疾患あり、出血症状なし、臓器症状あり、血清FDPは未検査、血小板4.7万 /μL、血漿フィブリノゲン濃度468 mg/dL、プロトロンビン時間比1.56より、6から9点であり、DICの可能性があった(4)。徐々に呼吸状態が悪化し、入院18日目の未明に永眠された。入院経過を図3に示す。死後に血液培養からEnterobacter aerogenesが同定された。

表2:厚生省DIC診断基準
図3:入院経過 入院16日目から18日目にかけて発熱、脈拍数の上昇及び白血球数、CRPの上昇が見られる。

病理解剖所見

肝臓は1250 gであり、外観上、特記すべき所見はなかった。類洞内に鬱血がみられたが、慢性虚血を示唆する脂肪変性は見られなかった。一部に僅かな微小膿瘍と肝細胞の壊死が見られた(図4 A)。小胆管に僅かに胆汁栓を認めた。これらは敗血症を示唆する所見である。小葉間胆管周囲にはリンパ球浸潤及び線維化を認めた(図4 B)。これは慢性胆管炎でも見られる所見であるが、好中球浸潤など急性胆管炎の所見は見られなかった。

脾臓重量は135 g (正常約80 g)であった。脾臓実質は出血を反映してまだらな割面を呈し、組織では好中球が増加していた。これらは感染脾の特徴であるが、膿瘍は見られなかった。

図4:肝臓
A 破線で囲んだ部位に好中球の集簇が見られる (微小膿瘍) 。矢印で示した部位では肝細胞の細胞質はエオジン好性となり、核は消失している(肝細胞壊死)。
B 胆管周囲にはリンパ球が浸潤、線維化により肥厚している。慢性胆管炎が考えられる。

両側腎臓はいずれも145 g (正常約120 g)であった。外見上、点状出血を認めた。糸球体に鬱血が見られたが、微小血栓は認めなかった。尿細管拡張はなく、水の再吸収能は保たれていると判断した。尿細管細胞障害を反映した水腫様変性は皮質、髄質ともに均一に見られた(図5)。

図5:腎臓 瀰漫性に水腫様変性が見られるが、尿細管拡張は見られない。

右肺は680 g、左肺は475 gであった。右下葉は触診上硬かった。顕微鏡的には大葉性肺炎を示唆する広範な好中球浸潤が見られた(図6 A, B)。肺胞に食物残渣の混入は検出できなかった。中葉及び下葉肺動脈内に血栓塞栓を認めた。器質化していたので、形成されてから1週間以上経過しており、敗血症の発症以前に(おそらく深部静脈に)形成されたと推定された。

頭蓋内の主要動脈(椎骨脳底動脈及び内頚動脈の分枝)は全体的に硬化していた。

図6:右下葉の大葉性肺炎(A:弱拡大, B:強拡大) 肺胞内に、出血、フィブリン沈着とともに強い好中球の滲出が見られる。

右前頭葉深部白質は疎になっており、触れると軟らかかった(図7 A)。MRIではT2強調像で軽度高信号、拡散強調像で著明な高信号を呈していた(図7 B, C)。組織では梗塞巣と非梗塞部位との境界が明瞭であった(図7 D)。部分的には、梗塞巣周囲には浮腫のみが見られ(図7 E)、梗塞巣では少数のマクロファージ浸潤を伴うものの、神経線維の構造は保たれていた(図7 F)。大部分(図7 G)では、梗塞巣周囲に軽度のアストロサイトの増生(グリオーシス)が見られ(図7 H)、後足部は神経線維の構造が崩壊し、マクロファージが浸潤していた(図7 I)。

図7A:右前頭葉白質の梗塞巣 マクロ像
図7B:右前頭葉白質の梗塞巣 MRI T2強調像
図7C:右前頭葉白質の梗塞巣 MRI 拡散強調像
図7D,E,F:右前頭葉白質の梗塞巣
D 梗塞部位と非梗塞部位との間に明瞭な境界が見られる。
E 梗塞部位の周辺部に浮腫が見られる。
F 梗塞部位。縦走線維と横走線維の構造が保たれている。わずかにマクロファージの浸潤(矢印)

右側頭葉のシルビウス裂部と主病変のある後部では、白質は疎で変形しており、軟らかく触れた(図8 A, D)。MRIではT2強調像で高信号、拡散強調像では著明な高信号を呈していた(図8 B-F)。梗塞部では、内部に空洞が存在する像も見られ(図8 G)、多数のマクロファージが浸潤し、壊死物質を貪食していた(図8 I) 。梗塞巣周囲では多数のアストロサイトが増生し、進行したグリオーシスが見られた(図8 H)。

図8A:右側頭葉梗塞巣 マクロ像
図8B:右側頭葉梗塞巣 MRI T2強調像
図8C:右側頭葉梗塞巣 MRI 拡散強調像
図8D:右側頭葉梗塞巣 マクロ像
図8E:右側頭葉梗塞巣 MRI T2強調像
図8F:右側頭葉梗塞巣 MRI 拡散強調像
図8G,H,I:右側頭葉梗塞巣
G 梗塞巣中心部の空洞化。
H アストロサイトの増生(矢印)。
I 多数のマクロファージが空洞内に浮遊。

考察

臨床経過から以下の3点が問題となった。

①通常、Enterobacter aerogenesは消化管に常在するグラム陰性桿菌であるが、健康な個体に感染する確率は低い。抗生剤投与や静脈カテーテル留置、外科処置に起因して院内感染、日和見感染を引き起こす。本例では腸管及び胆道系に感染を示唆する所見を認めなかったが、嚥下障害が見られたため長期間にわたり絶食状態にあり、免疫低下状態にあったと考えられた。なお、延髄は片側性に浮腫性変化を来していた。右中大脳動脈領域の梗塞巣の浮腫による圧迫、皮質脊髄路のWaller変性等の二次変性による影響が原因と推測した。剖検所見では右肺下葉に大葉性肺炎を認めた。これは、嚥下障害を背景に不顕性誤嚥が起こり、免疫低下状態であったため、大葉性肺炎を発症し、更に敗血症に移行したと考えられる。

②腎臓の組織所見では尿細管細胞の障害を示す水腫様変性が皮質髄質ともに瀰漫性に見られた。腎前性(虚血が原因)であれば、血流に一致して区域性に見られるのが典型的である。水腫様変性の分布から腎性の原因が考えられた。腎性腎不全の原因として経過から薬剤性の可能性が最も考えられた。腎機能低下が見られた時期を考慮すると、腹部造影CTで使用したヨード系造影剤、感染症に対して使用されたセフォペラゾン/スルバクタムが原因である可能性が考えられた。

③本例では幾つかの梗塞巣で異なったMRI所見を認めたので、梗塞はMRI撮影時点で既に異時性に多発したと考えられた。ここでは、右側頭葉後部の主病変と 周囲に散在する小病変を代表して右前頭葉深部白質の病変を取り上げ、発症時期を考察する。その前に一般的な脳梗塞後の変化について概説する(1)-(3)。

発症から1~24時間後の超急性期では、虚血により酸素供給が断たれ、酸化的リン酸化によるATP産生が途絶える。細胞膜に存在するNa/K ATPaseが働かなくなり、細胞内外のNa及びKの濃度勾配を保てなくなる。そして、細胞内Na濃度は上昇し、細胞内浮腫をきたす。それに伴い、細胞間隙は狭小化する。また、細胞内小器官の崩壊により細胞内粘張度が上昇する。これらが原因となって水分子の拡散能力が低下する。この変化はMRIでは拡散強調画像で高信号(Apparent diffusion coefficient (ADC)低値)として反映される。

発症から1~7日後の急性期では、血液脳関門が破綻し細胞外浮腫が生じる。この時期になると炎症細胞、マクロファージの浸潤も出現する。MRIでは細胞外水分量の増加を反映してT2強調像で高信号を示す。水分子の拡散の速い細胞外浮腫が生じるものの、細胞性浮腫の存続や細胞浸潤、微小出血のため拡散強調像での高信号(ADC低値)は持続する。

発症から1~3週間後の亜急性期では細胞壊死が進行し、細胞が崩壊することにより細胞性浮腫は消退する。マクロファージ等の炎症細胞浸潤も次第に消退し、グリオーシスが進行する。水分子の拡散能は回復し、MRIでは拡散強調像で信号低下(ADC上昇)する。血管性(細胞外)浮腫は持続するためT2強調像は高信号を呈する。

発症から1ヶ月以降の慢性期では、壊死細胞の崩壊と病巣周囲のグリオーシスが完成する。壊死部分は細胞外液腔となる。MRIでは拡散強調像で無信号、T2強彫像で高信号として描出され、脳脊髄液と同様の信号を呈する。

以上の経時的変化を図9に示す。この図から、主病変が撮影時点ではすでに急性期から亜急性期の移行部に至っていたことから最も古く、周辺の小梗塞はその後にやや遅れて生じたと考えられる。脳梗塞は脳の動脈硬化や心原性の塞栓などによって起こるが、前者では硬化巣から抹消に二次的に塞栓が形成されることがある。最も大きな梗塞巣の周囲に小さな梗塞巣からの塞栓が繰り返し起こったことを示唆している。

図9:梗塞後のMRI画像と組織像の経時的変化。

次に、発症後8日で撮影されたMRI画像とその13日後に行われた剖検時の組織とを対比する。急性期(T2強調像で軽度高信号、拡散強調像で高信号)のMRI所見を示していた右前頭葉深部白質の梗塞巣(図7)では13日後の組織を見ると、多くは時間相応に組織崩壊を伴う亜急性期まで進んでいたが、一部、神経線維の構築が残っている(細胞内浮腫の状態に対応した)部分がみられた(図8 C)。これは、梗塞を発症した際に、一部が生き残り、その部分が肺炎、敗血症による循環不全に伴って梗塞に至ったためである可能性が高い。特に、繰り返す塞栓等のために側副血行路が形成されると、一本の血管の閉塞では組織の壊死が一様にはならなくなると考えられる。

右側頭葉の梗塞巣(図8)は、MRIで亜急性期(T2強調像で高信号、拡散強調像で高信号)に合致する所見を呈しており、症状出現と同時に生じた梗塞巣として矛盾しない。組織では、梗塞巣中心部は組織構造が崩壊し、多数のマクロファージが浸潤して、一部に顕微鏡的な空洞形成が見られ、MRIの変化と時間的に近かった。これは、時間が経過するほど変化の幅が広がり、13日間のずれが目立たなくなるためと考えられる。

まとめ

本例の経過を図10にまとめた。右大脳半球の梗塞を発症し、その症状として嚥下障害を来たした。この状況で大葉性肺炎が右下葉に起こっており、肺胞内に食物残渣は同定できなかったものの誤嚥により発症した可能性が高い。長期臥床、絶食のため免疫機能が低下しており、肺炎が大葉性となっただけでなく、血中に細菌が移行し、敗血症に至ったと考えられる。剖検で脾臓が感染脾の像を呈し、肝には微小肝膿瘍が見られたことは、この推定を裏付けている。

本例を通じて、脳梗塞のMRI所見と組織像と対比させる機会が与えられた。脳梗塞後に生じる細胞障害性浮腫、血管性浮腫及び細胞崩壊に対する一連の反応を画像所見と組織学的所見から有機的に統合して理解することができた。

図10:病態のまとめ

参考文献

  1. Vinay Kumar, Abul K. Abbas, Nelson Fausto ; with illustrations by James A. Perkins. Robbins and Cotran pathologic basis of disease. 7 th ed.1361-1365
  2. Burdette JB, Ricci PE, Petitti N, et al: Cerebral infarction: time course of signal changes on diffusion – weighted MR images. Am J Roentgenol 171 : 791-795, 1998.
  3. 青木茂樹、相田典子、井田正博、大場洋:新版よくわかる脳MRI:180-215, 2004
  4. 青木延雄、長谷川淳:DIC診断基準の『診断のための補助的検査成績、所見』の項の改訂について、厚生省特定疾患血液凝固異常症調査研究班、平成4年度業績報告集、37-41, 1988