滋賀医科大学 分子診断病理学部門

がんをどう理解したらいいか ~発がんメカニズムから考える~(WEB公開講座)

はじめに

がん研究は、遺伝子レベルで行われるようになって、ますます専門化し、一般の理解から遠い所で行われているかに見えます。一方、巷の書店をのぞけば、医療関係の本のコーナーにがんに関する本がとても多いことに驚かされます。いかに人々ががんについて理解したいと思っていることか。日本では欧米と異なり、高校でがんを教えることがありません。これだけがんが身近になっているのに、がんについて判断するための基本的なことがらを教わったこともなく、担当の医師の説明だけで、「決めるのはあなたです」と、インフォームド・コンセントをとられるのはどこかおかしい。自分のがんについて、自分自身の判断をしようと、本を読んだり、インターネットで調べたりしても、考え方は様々で、何が正しいのかよく分からない、というのが実感ではないでしょうか。ここでは、先端的な知識そのものよりも、がんをどう理解すればよいのかについて、現在までの研究データやがん研究者のコンセンサス、そして病理解剖や診断を通じてヒトのがんを見てきた私自身の経験に基づいて、皆さんと一緒に考えてみたいと思います。



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1. がんはなぜ増えているのか

最近、「がんが増えている」といった報道をよく見かけます。実際に、諸外国と比べて日本人にがんが多いのでしょうか?先進7カ国の死亡統計を見てみましょう。

左側の「死因割合」を見ると、確かにこの7カ国の中では最も高い値を示しています。しかし、人口構成を標準化して比較(年齢調整死亡率)すると、日本人にはがんが少ないということがわかります。表中の「平均寿命」を見ても、“がんが増えているのは、がんに罹りやすい高齢者が増えているからではないか”ということが考えられます。(今日の日本では、女性の4人に1人,男性の5人に1人が65歳以上の高齢者です。)

では、なぜ高齢者にはがんが多いのでしょうか。これから、発がんのメカニズムをとおしてこのことを考えていきます。

先進7カ国の死亡統計
先進7カ国の死亡統計

2. がんとは? ~がんは「細胞増殖が速くなり、細胞が死ななくなる病気・がん家系におこる遺伝病」なのか~

よく、がんは細胞が死ななくなる病気だとか、細胞の増殖が速くなる病気だという話を聞きます。これが本当に正しいのかどうかから考え始めましょう。

私たちの体には不死の細胞が3種類います。幹細胞、生殖細胞そしてがん細胞です。いずれも自己再生産のできる細胞で、一生自分の体細胞をつくり続けるのが幹細胞、世代を超えて生き続け次世代の個体をつくるのが生殖細胞です。がん細胞は主に幹細胞から、時に生殖細胞からも生まれます。がん化によって不死の細胞が生まれたわけではないのです。

(注:腫瘍は幹細胞から発生するというこの考え方は、現時点ではひとつの作業仮説です。一旦自己再生産能を失い、成熟分裂細胞あるいは前駆細胞と呼ばれる細胞に分化してから、癌化によって自己再生産能を再獲得するという可能性も考えられています。しかしここでは、よりシンプルで、多段階発癌の考え方にもなじむ作業仮説を採っています。)

まず、細胞の一生について見てみましょう。

体の中では、先ほど登場した幹細胞が細胞分裂を行って増殖しています。増えてきた細胞のなかで、幹細胞のままでいるものと、分化(細胞周期から外れて、機能的に専門化すること。分化した細胞は増殖せず、やがて死んでいく。)するものに分かれます。この分裂後の細胞が「幹細胞のままとどまる」確率を “自己再生産率:P ” とします。正常では、このPは0.5に保たれています。2つに1つは増殖しなくなるということです。いくら速く細胞が分裂しても、分裂した細胞の半分が分化して増殖しなくなれば細胞の数は増えません。

つまり、がんが生長する(=がんの体積が増加する)ためには、増殖の速さよりも分化の異常(分裂した細胞の半分以上が分化せず増殖にまわる:P >0.5)の方が本質的です。何らかの異常が起こって、分裂した細胞の半分以上が増殖にまわるようになれば、残りの細胞はいくら死んでも腫瘍は生長するのです。

また、がんは「がん家系におこる、遺伝する病気」だということもよく耳にします。これについて考えるために、“遺伝”ということをもう一度見直してみましょう。

一般的には、「遺伝=親の体質などが子どもや孫に伝わっていくこと」とされていますが、より広い意味での遺伝には「個体間遺伝」(個体から個体への遺伝、いわゆる“遺伝”と呼ばれているもの)と、「細胞間遺伝」(細胞から細胞への遺伝)の2つがあります。

個体間遺伝は生殖細胞による遺伝であり、個体発生ができて初めて成立します。植物などと違って、ヒトでは大きな染色体異常や遺伝子異常があると個体発生ができません(→流産)。

これに対し、細胞間遺伝は体細胞による遺伝(=体細胞遺伝)であり、分裂した細胞が「細胞として生きていくこと」ができれば成立します。この「細胞として生きていくこと」は、個体として発生することから見ればはるかにハードルが低いため、体細胞遺伝ではより大きなスケールでゲノムの変化が起こりえます。この項のはじめに、がん細胞は幹細胞から発生すると述べましたが、この初めの段階で起きた異常が細胞が分裂するたびにコピーされ、細胞から細胞に遺伝しながら細胞が増加した結果が腫瘍なのです。

細胞の一生
細胞の一生

がんでは、染色体の数や構造が大きく変化しています。染色体の倍加が起こることすらあります。
右の図は、がん細胞の染色体をならべたものです。(クリックで拡大)
通常2本ずつのはずの染色体が3本以上になったり、変な形のものが増えているのがお分かりいただけると思います。生殖細胞にこのような変化が起これば、個体として発生することはできません。

がんで見られる、このような染色体の数の増減や倍加は進化の過程でも起こっていたことが知られており、生命が誕生して以来30億年の間、ヒトのDNAは2度のゲノムの倍加を経てきたと言われています。
(6-7億年前のカンブリア紀(脊椎動物が生まれる前)と4-5億年前に脊椎動物になってから。(大野 乾による))


ここまでのまとめ

  1. がんは細胞の増殖が速くなるのではなく、分化する(増殖しなくなる)細胞が減るために生長し続ける。
  2. がんは細胞から細胞への遺伝の病気である。
    (ヒトからヒトへ遺伝するがんはまれ。がん家系の人以外でも「がんになれる」)
  3. 個体から個体への遺伝における進化と、細胞から細胞への遺伝における腫瘍とはよく似ている。

    • ともに、染色体の倍加を含む大きな変化が起こる。
    • しかし、前者では個体発生ができるという条件を守りながら、何億年もかけて変化が起こってきたが、後者では個体発生の制約が無いので、とても速く(10年そこそこで)進化が起こる。

3. がんの本態:その公理と定理

上記のように、がんは分化の異常によって生長を続ける細胞集団です。そのような集団がどのように生まれたのかというと、最初は一個の異常な幹細胞でした。腫瘍とはその一個の幹細胞の子孫全体、つまりクローンなのです。

最初の細胞の異常が子孫に伝えられるためには、細胞が分裂するたびに異常がコピーされ、細胞から細胞に遺伝していかなければなりません。そのためには、その異常は(突然変異のような)遺伝情報(DNA)の異常でなければなりません。私たちのDNAは、いくら発がん物質をとらないように気をつけても、体温による分子運動でさえ毎日相当傷ついています。それを治すために私たちの体には、幾重もの安全装置の付いたDNAの変化を防止するシステムが装備されています。このシステムでは①まずDNAを合成する前に増殖を一旦停止し、②DNAに異常がないかチェックして間違いがあれば修復し、③修復できなければその細胞にアポトーシスという形で死んでもらいます。

(ただし、この防止システムでも完全ではなく、一定の頻度で(多くの場合、①の一旦停止ができず、間違ったままDNAが複製されることで)間違いの固定(=変異)が起こってしまいます。そしてこの変異こそが進化の源で、この変異がなければ、私たちがヒトにまで進化することはできませんでした。)

正常の幹細胞が異常な幹細胞になる過程で、そのシステムを維持している(がん抑制)遺伝子が、ある確率で、一つ一つつぶれていきます。このようなDNAの変化を複数蓄積できるのは、自己再生産し続けることのできる幹細胞だけなので、その結果、変化を蓄積した異常な幹細胞に遺伝情報の間違い(変異)が頻発するようになります。これがゲノムの不安定性という状態で、この不安定性を獲得した異常な幹細胞に次々と遺伝子変化が積み重なっていくうちに、先に述べた分化の異常が起こるのです。そうなると、異常な幹細胞はクローンをつくり始め、腫瘤として生長し始めます。その生長過程でも遺伝情報の変化は更に加速され、そのクローンの中からがん細胞といえるほどに姿形の変わった細胞が進化してきます。そしてそのような細胞の中から、組織内を広がる(浸潤する)能力や他の臓器に転移する能力を獲得したものが現れてくるのです。がんが発生する過程は、このように、一種の進化と言えるでしょう。

このようながんの発生のプロセスから、以下の3つの基本性質(公理)が抽出できます。


がんの公理

1. がんは幹細胞に起こったDNAの異常によって発生する。

→DNAの異常(突然変異やメチル化)は細胞から細胞へ遺伝する。

2. がんはクローンである。

→細胞の増殖と分化の振り分けの調節が変化した(P>0.5)一つの異常幹細胞の子孫として生長する。

3. がんは進化=進展する。

→DNAの変化を防止するシステムに異常があるために、幹細胞のDNAに短時間で変異が蓄積していく。

がんの公理のイメージ図(クリックで拡大)

この公理から、以下の定理が導き出されます。

  • 定理1. 細胞の顔つきがおかしくなる。(異型)
  • 定理2. 周囲の組織に攻め込んだり(浸潤)、他の臓器に飛び火(転移)する。
  • 定理3. がんは自律的に指数関数的に生長する。

では、それぞれの定理について見ていきましょう。

定理1. 細胞の顔つきがおかしくなる。(異型)

まず、なぜ腫瘍では異型が現れるのでしょうか。腫瘍の発生には(一つの変化だけで発がんできる少数の例外を除き)DNAの変化が蓄積することが必要です。その蓄積を可能にしているのがゲノムの不安定性でした。ある腫瘍が発生するためには、必要な特定の遺伝子セットに変化が出揃うまで、ランダムに変化が蓄積していくと考えられます。この間に、ゲノムの中に散りばめられている多くの(細胞や組織の)形態に関わる遺伝子に必発的に変化が起こることが異型の原因でしょう。(例外的にPh1転座という一つのDNA異常で発癌する慢性骨髄性白血病では、この異型がほとんどありません。)がんの存在の確定に使われている病理診断では、この異型の程度の強いことが、がんの根拠となります。

顕微鏡で見た異型の例(クリックで拡大)

定理2. 周囲の組織に攻め込んだり(浸潤)、他の臓器に飛び火(転移)する。

次に、なぜ浸潤や転移が起こるのでしょうか。細胞が隣接する組織に侵入し、その組織を破壊することを浸潤といいます。転移は空間的に連続しない臓器に腫瘍が「飛び火」することです。これらが起こらなければ、がんは大きな良性腫瘍と同じで、手術で取りきることができます。細胞増殖に関連する遺伝子の変化で、クローン性に細胞の数が増えるように、細胞の振る舞い(細胞どうしの接着、細胞とその周りの環境とがなじむかどうか、細胞の移動など)に関連する遺伝子の変化で浸潤・転移が起こります。次項で述べますが、この遺伝子変化も確率的にランダムな変化の蓄積を通して獲得されるため、時間がかかります。

定理3. がんは自律的に指数関数的に生長する。

最後に自律的な生長です。これは、増殖を調節するメカニズムが破綻したために自己再生産率P > 0.5に固定されることで腫瘍が発生した以上、当然と考えられます。

以下、少し数式を使って考えると、この自律性生長は右のスライドような指数関数で表されます。

さて、がんは生長する細胞集団だと言いましたが、どこまでも無限に生長するのでしょうか。ヒトの体という限りある環境の中では、腫瘍の生長はいつか頭打ちになります。どのくらいのサイズで頭打ちになるのかが問題です。

このサイズがとても大きいために、頭打ちになる前に命を失ってしまうようなものが悪性です。逆に、良性とは、私たちが十分耐えられるサイズで生長が頭打ちになるものと理解できます。(この「十分耐えられるサイズ」は、ヒトでは径10 cm前後とされています。)良性と悪性は全く違う世界の腫瘍ではなくて、いつ生長が頭打ちになるのかが違うだけで、生長関数という同じ関数に従って生長します。悪性の場合、この生長関数の立ち上がりが指数関数に近似できるということです。
(ニュートン力学が相対性原理の中に含まれている状況と似ています。)

クリックで拡大
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もしそうなら、良性腫瘍は途中から悪性に変わることがあるのでしょうか。それはあります。しかし、変わらないもの(悪性化しないもの)も多くあります。逆に、見かけは悪性でも小さいうちから生長が頭打ちになるようなものはないのでしょうか。これも実はたくさんあるのです。次項からは、これらのことについて考えていきます。

良性・悪性のイメージ図

4. がんは確率的な病気

上で述べたように、がんは幹細胞に起こったDNAの異常によって発生する病気であり、このDNAの異常は誰にでも起こっています。つまり、がんはある確率で誰にでも起こる、といえます。ただ、幹細胞のDNAに複数の変化が蓄積される中で、発がんに必要な変化が出そろうまでには相当な時間がかかります。ですから、「がんに罹るため」にはそれだけの期間生き続けている必要があり、このため、がんは高齢者に起こりやすい、ということになります。

また、同じようなDNAの変化の蓄積が良性腫瘍にも起こると、良性腫瘍が悪性に変わることになります。これは左図のように、大腸の腺腫でよく見られ、腺腫内癌と呼ばれています。
この図の左の写真の上半分が腺腫、下半分が癌です。この癌の成分が右側に示す直径約1.5 cmの腺腫の中の矢印の部分にだけ分布しています。
 一つのがんができる背景には、数多くのがんになれなかった異常細胞や病変が現れては消失していると考えられます。私たちは微小ながんの卵を知らないうちに持っているわけです。胃や大腸では、たまたま見つかる5 mm以下の小さながんは臨床がん(臨床的にがんとして見つかるもの)の頻度の20-100倍に達します。このことからも、多くの微小がんは臨床がんにならないと考えられます。

では、実際に微小がんのうちどのぐらいのものが臨床がんになっているのか、大腸癌を例に計算してみましょう。
大腸腺腫(良性腫瘍)の発生頻度は40歳以下で20-30%、60歳以上で40-50%です。少なく見積もって、全体の1/5の人が腺腫を持っているとしても、腺腫のがん化率は平均約10%なので、腺腫内癌(微小がん)の頻度は1/50と推定されます。

腺腫内癌(クリックで拡大)

一方、大腸癌(臨床がん)の罹患率は2001年の地域癌登録のデータから、約50/100000 = 1/2000です。

つまり、腺腫内癌の1/40(←1/2000÷1/50)しか臨床がんになっていない!ということになります。このことは、腺腫だけでなく、大半の小さな腺腫内癌も頭打ち生長をしていることを示唆しています。
(ただし、一つの微小がんが進展するかしないかをあらかじめ知ることはできません。)

また、がんが進行する過程も確率に支配されていて、時間がかかります。がんは他の臓器に飛び火(転移)しますが、転移するために、がん細胞は多くの新しい能力を(試行錯誤で多くの失敗を重ねながら確率的に)獲得し、多くの関門をクリアしなければなりません。しかも、そのすべてがクリアされないと転移が成立しないのです。

進展のイメージ図(クリックで拡大)

血管に入ったがん細胞の生存率は0.1%以下であり、転移に成功するのはさらにその0.01%しかないとされています。つまり、血中に入ったがん細胞のうち、転移巣を作るものはわずか0.000001%です。細胞を一辺が10 µmのサイコロと考えると、1 mm角の腫瘍片の中には1,000,000個の細胞が含まれています。0.000001%の確率は、そのような組織片10個分の細胞が試行すれば起こるチャンスがある、ということです。
(ただ、転移のしやすさは、確率だけでなく、がん細胞の様々な性質も関係しています。)

転移のイメージ図(クリックで拡大)

径5 mm以下の微小がんは前がん病変や良性腫瘍と重なりの大きい段階(しばしば頭打ち生長)ですが、しかし、目に見えるサイズの早期がんは、放置すれば進行がんになる(指数関数的に生長している)ものと理解されています。

進展のイメージ2(クリックで拡大)

このことから、それぞれの対応(治療法)を考えると、以下のようになります。

  • 微小がん:積極的な治療は必要ない。生長が止まる(または消える)可能性が高い。
  • 早期がん(転移がない):局所切除で90%以上治る(治療しやすい)。早いうちに発見し治療することが重要。
  • 進行がん:命がけの全身治療が必要。5年生存できるのが30-70%。

次項では、がんの治療について概説します。


5. がんの治療

前項でも少し登場しましたが、がんの治療には局所的治療と全身的治療があります。順に見ていきましょう。

①局所的治療

外科的切除

限局性生長の段階のがんを物理的に取りさってしまうものです。多発性転移のある腫瘍では(取りきれないので)適応はありません。また、リンパ節転移の心配がない消化管粘膜内の早期がんについては、内視鏡的切除(EMR,ESDなどと呼ばれるもの)が行われるようになっています。

放射線療法

限局性のがんに対して、放射線を使ってDNAにダメージを与えることでがん細胞を殺そうとする治療法です。周囲の正常細胞もダメージを受けてしまいますが、正常細胞はがん細胞よりも修復が早いため、治療効果が期待できます。なお、周囲に放射線に弱い臓器(腸などが代表的)がある場合は治療が難しいこともあります。

②全身的治療

化学療法

全身に広がったがんに対して、抗がん剤を使ってDNAにダメージを与えて治療します。がん細胞だけでなく、正常細胞のDNAも傷害されますが、がん細胞よりも回復力が強いので、障害→回復の競争を繰り返して腫瘍を小さくし、うまく行けば消失させることもできます。

図は白血病(造血細胞のがん)に対する化学療法の治療効果のイメージです。骨髄細胞の大半が腫瘍細胞で占められている状態で、腫瘍細胞も正常細胞も区別せずにまず、抗がん剤でDNA損傷を与えます。これで細胞数が激減します。全身的な化学療法では、この時に髪の毛が抜けたり、白血球が激減したりします。その結果、感染の危険に曝されるので、通常は無菌室でこのような治療を行います。一旦休薬し、正常細胞と癌細胞に回復競争をさせると、もともとDNAの変化を防止するシステムに欠陥のある腫瘍細胞は、正常細胞のようには回復できず、数の回復してきた骨髄細胞に占める腫瘍細胞の割合は小さくなります。そこでもう一度DNA損傷を与え、また回復競争をさせます。これを繰り返すことによって、だんだんと腫瘍細胞の割合を小さくすることができ、また腫瘍細胞のDNAには損傷が蓄積していき、ついには増殖できなくしてしまう。この壮絶な命がけの競争が化学療法の原理なのです。

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分子標的薬による治療

基本的に細胞を殺さずに(説得して)暴走を抑える(“共存共栄”を目指す)ことを目標にした、比較的新しい治療法です。がん幹細胞の増殖因子受容体の活性を抑制する薬が多くつくられています。P <0.5が誘導できれば、最も本質的な効果が期待できます。ただし、分子標的薬を飲むのをやめると、元に戻ってしまうことがこの治療の問題です。

(この他には、ホルモン療法,免疫療法などがあり,遺伝子治療も試みられています。)

分子標的薬 イメージ図

6. がんの意味:この世になぜがんがあるのか

私たちがDNAの「間違いを利用する」というメカニズムを進化に使ってきたために、同様のメカニズムでがんが生まれることになる。このように、がんが「進化の代償」である以上、この世から撲滅できるとは思われません。がんは命の営みの中に組み込まれており、人類とともにあり続けるのです。

がんを持っていると知らされた時、なぜ私ががんにならなければならないのか、私がどんな悪いことをしたのか、と多くの人は思い悩みます。この世になぜがんがあるのかを知ることが、このような苦悩を乗り越える助けになればと思っています。


まとめ

  1. がんが増えてきたのはがんの起こりやすい高齢者が増えたため。
  2. がんが高齢者に多いのは、多くのがんで発がんに必要な変化を蓄積するのに時間がかかるため。
  3. 長い進化の過程で起こってきた変化と同様の大きなDNAの変化が、がんでは10年程で起こっている。←がんの進化には個体発生の制約が無く、がん細胞のDNA修復能力が低いため。
  4. 公理:がんはひとつの幹細胞のDNAの異常が細胞から細胞へ遺伝することによってできたクローンであり、そのクローンは進化する。→その結果、異型、浸潤・転移する能力、指数関数的生長を示す。(ほとんどの微小がんと良性腫瘍は頭打ち生長。)
  5. 一つの臨床的ながんができる背景には、数多くのがんになれなかった異常細胞や微小病変が現れては消失している。(私たちは既にがんの卵を持っている。 )→治療の標的は微小病変でなく早期がん。
  6. この世になぜがんがあるのか:がんは進化の代償