A case of myelodysplastic syndrome showing fever, abdominal pain and leukocytosis before death

Junpei Yonemaru1), Miki Takeuchi2), Masahiro Yamamoto3)
Katsuji Okada4), Hiroyuki Sugihara5)
 
1) Junior resident, Kohka Public Hospital
2) Department of Internal Medicine, Kohka Public Hospital
3) Central Clinical Laboatory, Kohka Public Hospital
4) Department of Pathology, Hino Memorial Hospital
5) Division of Molecular and Diagnostic Pathology, Department of Pathology, Shiga University of Medical Science

A male in his late 70s had suffered from microcytic hypochromic anemia for 3 years. The cause of the anemia was examined with upper and lower gastrointestinal endoscopy but not identified in a hospital. Despite several blood transfusions and iron supplementation, he felt enhanced lassitude and consulted that hospital. Because CBC revealed severe anemia: Hb 3.7mg/dL, he was forwarded and admitted to our hospital for further examination. Diagnosis of myelodysplastic syndrome was made, based on the cellular morphology in bone marrow aspirate. On the third hospital day, he got a fever and was given antibiotics. He felt nausea and anorexia on the 8th hospital day, complained of abdominal pain on the 12th hospital day. Next day contrast-enhanced CT scan revealed splenomegaly and ischemia of multiple organs, and WBC became 46,000/μL. Soon, he died from circulatory insufficiency. Autopsy disclosed extramedullary hematopoiesis in spleen, micro abscesses in liver, colonic hemorrhage, and acute and chronic ischemic changes of intestine.

【図表】骨髄異形成症候群の経過中に発熱、腹痛と白血球増加を来たして死亡した1例”

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表1

表1: 入院時血液検査所見

表2

表2: 骨髄穿刺所見

表3

表3: 第13病日血液検査結果

図1

図1:胸部X線写真(座位、入院時)

図2

図2:骨髄像(穿刺吸引細胞)barは10 µm。
a. 多核赤芽球;b. 核間架橋(赤芽球);c. 微小巨核球;d. 偽Pelger-Huet核異常好中球;e. 2核骨髄球;f. 輪状核好中球

図3

図3:腹部CT
a. 第11病日、単純。脾腫と下大静脈の虚脱。
b. 入院4ヶ月前、造影。脾腫を認めていた。

図4

図4:腹部造影CT
a–c. 第13病日;d–e. 入院4か月前.
a. 脾臓の造影効果がdに比べて低下;b. 腎皮質の造影効果がeに比べて低下(部分的欠如);c. S状結腸・直腸壁がfに比べ肥厚。

図5

図5:骨髄
a. HE染色;b. aの強拡大;c. CD34免疫染色;d. p53免疫染色

図6

図6:心臓
左心室の求心性肥大と心内膜直下の脂肪変性。

図7

図7:脾臓
a. 腫大した脾臓。b. 赤脾髄と白脾髄の正常構築が保たれている。c. 赤脾髄は髄外造血を呈している。d. 類洞内に幼若な造血細胞が見られる。e. マクロファージによる赤血球貪食像。

図8

図8:肝臓
a. 類洞内に未熟な芽球様細胞b. 微小膿瘍

図9

図9:腎臓
髄質はうっ血、皮質は乏血(a)で、皮質の近位尿細管が拡張(b)。

図10

図10:結腸
a. 粘膜組織の浮腫性肥厚を示す急性虚血性病変。b, c. 境界明瞭な粘膜下層の線維性肥厚を示す慢性虚血性病変。Inset: 腸間膜動脈の動脈硬化性狭窄。d. 腸間膜静脈内の凝血中に芽球の混在。

図11

図11:病態のまとめ
上からしたに向かって、時間の流れに沿って病理所見から推定される変化の順序をまとめた。灰色の背景は造血組織、青の破線は入院の時点を表している。

骨髄異形成症候群の経過中に発熱、腹痛と白血球増加を来たして死亡した1例

公立甲賀病院/内科:米丸隼平、武内美紀
同中央検査室:山本昌弘
日野記念病院/病理診断科:岡田勝治
滋賀医科大学/病理学講座/分子診断病理学部門:杉原洋行


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抄録

症例は70歳代男性。3年前より小球性低色素性貧血のため前医で上下部消化管内視鏡等の精査が行われたが、原因を特定できず、数回の輸血、鉄剤投与を受けていた。某年1月、全身倦怠感の増強のため同院を受診、Hb 3.7 mg/dLと高度貧血を指摘され、精査のため当院内科紹介受診、入院となった。骨髄穿刺にて骨髄異形成症候群と診断した。第3病日より38℃台の発熱、第8病日より嘔気と食思不振、第12病日より強い腹痛が出現し、翌日未明の血液検査で白血球増多(46,000/µL)、造影CT検査で脾腫および多臓器での虚血の所見を認めた。急激な経過で循環不全に陥り死亡した。病理解剖で脾に髄外造血、肝に微小膿瘍、腸管に出血と急性および慢性虚血性病変を認めた。

はじめに

本院では初期研修医全員が臨床病理検討会の臨床的側面、病理的側面の両側に関わり、発表する機会が与えられる。今回は骨髄異形成症候群(MDS)の症例を取り上げた。骨髄異形成症候群では骨髄不全(血球減少)による感染や出血が死因の半数以上を占める。しかしながら今回の症例は、脾腫や白血球増多といった非定型的な臨床所見を呈し、強い腹痛を訴えて急な経過で亡くなった。この患者に何が起こっていたのか、病理解剖所見からこの症例の病態の全体像を考えてみた。

臨床経過

70歳代後半の男性。既往歴は慢性閉塞性肺疾患で、テオフィリン、モンテルカスト、リン酸コデインが投与されていた。某年5月に小球性低色素性貧血(Hb 5.0 mg/dL、MCV 64 fL)のため前医に入院。貧血に対しては輸血を行い、上部・下部消化管内視鏡検査、腹部造影CT検査を行ったが原因を特定できなかった。2年8ヶ月後の1月労作時呼吸困難を自覚、再度同院を受診し、高度貧血(Hb 3.8 mg/dL、MCV 67 fL)のため入院となった。輸血を行い、再度上部・下部消化管内視鏡検査、腹部造影CT検査、小腸造影を施行したが、原因は特定できなかった。その後鉄剤を投与されていたが、同年5月10日にはHb 5.6 g/dL、MCV 100 fLと貧血が十分改善しなかったため、輸血を受け一旦退院。同年10月に倦怠感が増強し、同院を受診、貧血の再増悪(Hb 3.7 mg/dL、MCV 96 fL)を指摘され、血液疾患を疑われ、濃厚赤血球4単位を輸血後、同日当院に転院となった。入院時は血圧114/59 mmHg、脈拍73回/分、体温36.8℃、眼瞼結膜は高度貧血様、皮膚も蒼白で左前腕内側に紫斑、下腿に浮腫があった。血液検査データ(表1)では、低蛋白血症及び、Hb 6.4 g/dL、Plt 8万/µL、WBC 4900/µLと2系統で血球減少を認めたが、網赤血球は77.3‰と増加していた。単球数は147/µLと1000/µL以下であった。胸部単純レントゲン写真(図1)では、心胸郭比62%と心拡大を認めたが、肺野には明らかな異常所見を認めなかった。

第2病日に骨髄穿刺(表2)を行い、塗沫標本で血球3系統に異形成を認めた(図2)。芽球は0.2%、染色体は正常核型であった。従って、FAB分類ではrefractory anemia(RA)、WHO分類1)ではrefractory cytopenia with multilinage dysplasiaと診断された。

第3病日に38.0℃の発熱を認めたため、血液培養採取後、セフェピムを投与開始した。第10病日で培養結果は陰性であった。同日、濃厚赤血球2単位を輸血したが、その後第7病日に不規則抗体である抗C抗体の陽転化を確認した。その後第7,8,10,11病日にそれぞれ濃厚赤血球2単位ずつの輸血を行った。

第8病日より嘔気と食思不振を認めたため、第11病日に腹部単純CT検査を施行した(図3a)ところ、脾腫と下大静脈の虚脱を認めた。なお、本院入院4ヶ月前に前医で撮影された造影CTでも脾腫が認められていた(図3b)。

第12病日午前2時頃より強い腹痛が出現。腹部は平坦・軟で特異的な所見に乏しかったが、腹痛が増悪したため、翌日0時30分に血液検査(表3)と造影CT検査(図4a-c)を施行した。MCVが102.0 fLと初めて大球性を呈した。Hb 4.3 g/dL と高度の貧血及びWBCは46,000/µLと著明な増加を認めたが、芽球など異常細胞は見られなかった。また肝機能障害、腎機能障害、血小板減少、Dダイマー上昇、フィブリノゲン低下、プロトロンビン時間延長等、厚生労働省のDIC診断基準2)を満たしておりDICと診断した。血液ガスは高度のアシドーシスを示していた。造影CT検査では、腹腔動脈や上腸間膜動脈など主要動脈の壁肥厚、入院4ヶ月前(図4d-f)と比べ脾臓の造影効果の低下(図4a)、腎皮質の造影効果の欠如(図4b)、S状結腸・直腸に拡張と壁肥厚(図4c)があったことから、非閉塞性腸管虚血(non-occlusive mesenteric ischemia, NOMI)が疑われた。造影CTより帰室後に徐脈、下顎呼吸、血圧低下とショック状態に陥り、心肺蘇生を行ったが、4時過ぎに死亡された。

急速な経過で腸管虚血に至り死亡された原因を明らかにするため、遺族の承諾を得て、病理解剖が行われた。

病理解剖所見

病理解剖は死後31時間後に施行された。

骨髄では実質/脂肪比は正常範囲内であった。芽球の集簇が散在性に見られ(図5a,b)、その一部がCD34陽性であった(図5c)。またp53の免疫染色で散在性に陽性細胞を認めた(図5d)。p53陽性細胞は正常骨髄ではほとんど見られず、MDSでは少数であっても高頻度に見られる3)。

肺では、気腫性の変化が上葉に強く見られ、下葉では鬱血性肺水腫を認めた。肺重量は右460g、左400gと増加していた。

心臓は460gと重量が正常の約1.5倍に増加し、求心性に肥大していた(図6a)。高度の貧血による代償性肥大と考えられた。また、心内膜直下の心筋には脂肪変性が見られ、急性虚血の所見である(図6b)。

脾臓は370gと腫大していた(図7a)が、組織では正常構築は保たれていた。(図7b)類洞内には骨髄芽球や赤芽球を含む髄外造血を認めた(図7c, d)。他にもマクロファージによる赤血球の貪食像を認めた(図7e)。

肝重量は1120gと正常範囲内であった。中心静脈周囲に脂肪変性を認め、急性虚血の所見である。類洞内に未熟な芽球様細胞が見られ(図8a)、小葉内に微小膿瘍が散見された(図8b)。鉄染色により、肝細胞の鉄貯留の枯渇が確認された。

腎臓は左右とも150gで軽度腫大していた。皮髄境界はやや明瞭で、循環不全による血流再分布(髄質の鬱血と皮質の虚血)が見られた(図9a)。尿細管は皮質でびまん性に拡張していた(図9b)。

腸管には上行結腸の管腔内に凝血塊が見られ、小腸で分節状のうっ血と粘膜出血が見られた。組織では急性の虚血性変化である粘膜下層の浮腫性肥厚を認めた。(図10a)大腸では境界明瞭な粘膜下層の線維性肥厚を認め(図10b,c)、腸間膜動脈の動脈硬化性狭窄(図10bのinset)に関連した慢性虚血性変化と考えられたが、動脈内に血栓は認められなかった。腸間膜静脈内の凝血中に芽球の混在を認め、髄外造血の結果と考えられた(図10d)。

考察

MDSは、分化能を保った造血幹細胞の腫瘍で、慢性骨髄増殖性疾患のように慢性的に経過し、急性白血病への転化が起こる。このような腫瘍細胞がよく分化する造血系腫瘍では、正常造血が著しく抑制されており4)、抗がん剤治療のみでは異常クローンを駆逐することが困難で、骨髄移植をしない限り完治できないのが現状である。一方、慢性骨髄増殖性疾患では形態異常の乏しい成熟血球が末梢血中でも著しく増えるのに対して、MDSは3系統の血球の形態異常や無効造血が特徴で、末梢血中では血球が減少する。わが国では無効造血による骨髄不全が、MDSの死因の大半を占める。本症例も顕著な貧血を呈していた。ただ、通常MDSでは正から大球性貧血を呈するが、今回の症例では、貧血が前医診断時は小球性であり、MDSではまれな脾腫もみられ、最後には白血球増多を呈した点が非定型的であった。

貧血は、他院での入院中は鉄欠乏が重なっていたために小球性であったが、その後の鉄剤投与により鉄欠乏がある程度改善したことで、入院当初には正球性、その後更に大球性となったと考えられる。

この症例のような脾腫を伴うMDSはまれであると記載されている1)。しかし、Krausら(1998)5)は、RAの5~8%で脾腫が見られると報告している。この報告では、検索された13例のMDSに伴う脾腫を、組織学的に次の4種類に分類している:①赤血球貪食が目立つもの(3例);②赤脾髄の形質細胞増加が目立つもの(4例);③髄外造血の所見が目立つもの(3例);④単球の増加による赤脾髄の拡張が目立つもの(CMMoL、3例)である。本症例では敗血症による感染脾の所見や単球の増加がなかったため、髄外造血の所見が目立つ③に分類された。髄外造血は類洞内で造血が起こるために、末梢血中に未熟血球が出現する。これは剖検所見でも確認された。この髄外造血は重症貧血による二次的なものではなく、慢性骨髄増殖性疾患で見られる脾腫と同様、分化能を保った腫瘍性造血幹細胞の移住による、一種の転移としての腫瘍性髄外造血と考えられる。

この症例の死亡直前に見られた白血球増加の原因は、末梢血の血球構成から、急性白血病への転化ではなく、感染に対する反応と考えられ、病理学的にも白血病への転化は見られなかった。上述のように、MDSでは正常造血が抑制されているとすると、著しく増加した好中球の主体は腫瘍性と考えられ、その好中球は機能的には低下していたと考えられるものの、感染に反応して数を増やす能力は保持していたと考えられる。一方、今回のMDSの終末像はWHO分類1)のmyelodysplastic/myeloproliferative neoplasm, unclassified (MDS/MPN, U)とも重なる。このカテゴリーでは、MDSの形態異常に加えて血小板または好中球の増加があり、脾腫を伴うこともある。ただし、MDS/MPN, Uは、初診時からその特徴が明らかのものに限られ6)、この症例には当てはまらない。

白血球増加の誘因と思われる細菌感染巣は、病理解剖所見から、腸に絞られた。おそらく脱水による循環血液量の低下により血管が攣縮を起こし、虚血性の粘膜破壊が原因でBacterial translocation (BT)が起こり、白血球増加とともに肝臓に微小膿瘍を形成したと考えられた。微小膿瘍のサイズがかなり小さいこと、炎症の原因が出現してからそこに好中球が到達するまでに約24時間かかること7)を考慮すると、腹痛が起こる1~数日前からBTとそれによる敗血症が起こっていたと考えられる。多臓器不全を来した循環不全やDICもこの敗血症の結果と理解される。ただ、血圧は、心肺停止の1時間余り前まで保たれていたが、蘇生に反応せず死亡された。

臨床的にはこの腹痛を伴う病態をNOMI8,9)と推定した。NOMIの具体的な診断基準は確定していないが、虚血領域に対応する腸間膜動静脈に閉塞を認めず、腸管の虚血が分節性で、組織学的に腸管の出血・壊死の所見を認めるのが特徴である。NOMIの背景にある全身の低灌流状態では、脳や心臓などの重要臓器への血流を維持するために腸管や腎への血流が犠牲にされる。この血流再分布では、腸間膜動脈を支配する交感神経が過剰に反応して血管が攣縮することで腸管虚血が生じる。

腸粘膜の深部には吻合に富む細動脈のネットワークがあり、そこから吻合のない細動脈が立ち上がり、動静脈がヘアピンカーブを介して近接し、一種のcountercurrentを形成して物質の濃度勾配を維持し、吸収を容易にしている。これは腎皮質の組織と酷似している。腎では皮髄境界部に血管ネットワークがあり、そこから皮質に向かって立ち上がった終動脈がcountercurrentを形成して尿の再吸収に働いている。このような組織で(攣縮等により)動脈潅流圧が減少すると、腸粘膜表層や腎皮質に向かう終動脈系の血流が低下する。その結果、腸粘膜では表層の虚血性壊死により粘膜バリアが崩壊し、BTに至り、腎では急性尿細管壊死(ATN)に至る。この症例ではATNは認識できなかったが、尿細管が拡張し、腎が腫大していた。これは虚血による再吸収の低下により、尿細管内に貯留する尿の増加を反映している。

本症例の解剖所見でも分節性の病変分布が、特に小腸で見られ、敗血症にもかかわらず血圧が維持できていたのは、NOMIを含む血流再分布が寄与していたためと考えられる。しかし、最終的には粘膜虚血による上行結腸の出血が直接死因となったと考えられた。

NOMIのリスク因子として、50歳以上の年齢、透析患者、動脈硬化、心大血管手術後、うっ血性心不全、肝腎疾患、敗血症、脱水などが挙げられる。この症例では腸間膜動脈の中等度の動脈硬化を認めており、加えて死亡の直前に敗血症の発症及び脱水もあり、NOMIを発症するリスクは高かったと考えられる。

なお、腸管では、腸間膜動脈の硬化・狭窄による粘膜下層の分節性線維化を認め、慢性虚血性病変が存在していた。このことは前医でみられていた小球性貧血の原因が、虚血性腸炎による繰り返す出血であったことを示唆している。

まとめ

脾腫を伴う非定型的なMDSの症例で、前医初診時に小球性貧血と末期に白血球増加がみられた。脾腫は主として腫瘍性髄外造血、鉄欠乏は慢性虚血性腸炎、白血球増加は敗血症によると考えられた。最後は、おそらく脱水が原因で慢性虚血性腸炎の急性増悪が起こり、腸管粘膜が破綻しBTによる敗血症により血圧が低下傾向となったが、重要臓器を守るための血流の再分布が起こり、それにより死亡直近まで全身血圧が維持できた反面、NOMIや腎機能低下が潜行性に進行し、上行結腸の致命的な出血に至ったと考えられた(図11)。

参考文献

1) Swerdlow SH, Campo E, Harris NLet al. (eds.): WHO Classification of Tumours of Haematopoieticand Lymphoid Tissues. 4th ed., IARC, Lyon, 2008.
2) 青木延雄,長谷川淳:DIC診断基準の「診断のための補助的検査成績,所見」の項の改訂について.厚生省特定疾患血液凝固異常調査研究班昭和62年度研究報告書:37–41.1988.
3) 伊藤雅文:MDSの骨髄病理組織標本の見方.わかりやすい骨髄病理診断学、定平吉都編、西村書店、東京、124–136項, 2008.
4) 朝長万左男:骨髄異形成症候群(MDS).三輪血液病学(第3版)、大野仁嗣他編、文光堂、東京、925–943項、2006.
5)Kraus MD, Bartlett NL, Fleming MD, et.al.: Splenic pathology in myelodysplasia:A report of 13 cases with clinical correlation. Am J Surg Pathol 22: 1255-1266, 1998.
6) Hall J1, Foucar K: Diagnosing MDS/MPD: laboratory testing strategies to exclude other disorders. Int J Lab Hematol 32: 559-571, 2010.
7) Robbinsand Cotran Pathologica Basis of Disease, 9thed. Kumar V et al. eds.Elsevier-Sounders, Philadelphia, 2015.
8) 門野, 他:.NOMI(non─occlusive mesenteric ischemia)の臨床像.日本腹部救急医学会雑誌31(7), 1005–1008, 2011.
9) Brandt LJ, Boley SJ:Nonocclusive mestneric ischemia. Annu Rev Med 42:107─117, 1991.

A case of diffuse large B cell lymphoma complicated by obstructive jaundice

The patient was a male in his late eighties. He complained of anorexia and weight loss and underwent chest and abdominal plain CT, which disclosed systemic lymph node swelling. Blood analysis disclosed elevated serum biliary enzymes and soluble IL-2 receptor. Based on these findings, he was admitted to our hospital under a provisional diagnosis of malignant lymphoma. On the 8th hospital day, a biopsy of supraclavicular lymph node was performed. Jaundice appeared on the 10th hospital day and was alleviated by endoscopic retrograde biliary drainage. Since the 20th hospital day, dyspnea exacerbated and caused death before definite diagnosis was made. Autopsy disclosed biliary stenosis and acute pancreatitis due to invasion of EB virus-associated diffuse large B cell lymphoma to the bile duct and pancreas, respectively, as well as sepsis and extensive acute bronchitis. Based on the autopsy findings, we discussed the pathogenesis of obstructive jaundice and pancreatitis, which are rare complications of malignant lymphoma.

【図表】閉塞性黄疸を来たしたEBウイルス関連びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の1例

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表1

表1 入院時血液検査所見

図1

図1:胸腹部造影CT(第2病日に施行)
A, B:膵周囲、縦隔の腫大リンパ節の中心部に造影効果が乏しく、壊死傾向が強いことが示唆される(矢印)。
C: 脾臓にも同様の腫瘍結節を多数認めた。総胆管、肝内胆管の拡張が見られる(矢印)。

図2

図2:胸部X線写真(臥位、第18病日)
両側、特に左肺優位に透過性の低下を認め、胸水貯留が疑われた。心拡大はない。肺炎を示唆する浸潤影もない。

表2

表2: 第20病日の血液検査・血液ガス測定結果

図3

図3:腫瘍の結節性増生
A: 膵周囲から大動脈周囲のリンパ節腫大。ペアン鉗子で膵の断面を示している。
B: 脾臓の多発性結節。
C: 中心部が大きく壊死したリンパ節病変。
D: 腫瘍は大型細胞の比較的均一な増生から成り、細胞膜がCD20陽性、核がEBER陽性。

図4

図4:総胆管とその周囲の炎症
A: 総胆管は膵内の近位部で狭窄。乳頭部近傍に膿の貯留を認める。
B: 乳頭部に近接したポケット状の腹膜腔への膿貯留(小矢印)とその周囲の膿瘍(矢印)。
C: 膵内の膿貯留は脂肪壊死と混在していた(矢印)。膵壊死(*)近傍の膵内、膵周囲に強いリンパ管侵襲とリンパ管外への浸潤が見られた。

図5

図5:膵内胆管狭窄部の横断面
ルーペ像の点線より右側は、膵組織が腫瘍に置換されている。*は膵実質の壊死を示す。黒枠で囲った部分の強拡大をAからCに示す。
A: 膵内への腫瘍細胞浸潤(左半分)と膵壊死巣(右半分)。
B: 動脈壁、静脈内への腫瘍細胞浸潤。
C: 胆管壁内への腫瘍細胞浸潤。

図6

図6:肝の所見
A: 肝表面の白色小結節。
B: Aの小結節に対応する、ランダムに分布する微小膿瘍(矢印)。Pは門脈域、Cは中心静脈を示す。
C: Bの黒枠部分の拡大。左上の中心静脈周囲に類洞の拡大、肝細胞の脱落、軽度の小滴性脂肪変性と胆汁栓(矢印)が見られる。右上に微小膿瘍が好中球の集塊として見られる。

図7

図7:肺の所見
A: 末梢肺に見られた小結節性の化膿巣(矢印)。細気管支(Br)との連続性がない。
B: Aの黒枠部分の拡大。細気管支の内腔に好中球が充満している。

図8

図8:病態のまとめ

閉塞性黄疸を来たしたEBウイルス関連びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の1例

公立甲賀病院研修医:中浦玄也、
同内科:大村寧、南部卓三
同中央検査室:山本昌弘
滋賀医科大学病理学講座分子診断病理学部門:杉原洋行


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要旨

症例は80歳台後半の男性。食思不振と体重減少を認めたため、胸腹部CTを施行。全身性のリンパ節腫脹を認め、また血液検査で胆道系酵素と可溶性IL-2受容体の上昇を認めたため、悪性リンパ腫の疑いで当院入院となった。第8病日に鎖骨上リンパ節生検を施行。第10病日より黄疸出現。ERBDにて減黄したが、第20病日より呼吸状態が悪化し、2日後、確定診断前に死亡された。病理解剖の結果、EBウイルス関連びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の胆管、膵への浸潤による胆管狭窄と急性膵炎、敗血症、広範な急性気管支炎が確認された。悪性リンパ腫の合併症としてはまれな閉塞性黄疸や膵炎を起こした機序について、剖検所見から考察した。

はじめに

本院での剖検は年間数例以内であり、その症例の多くが、ほとんど選択の余地無くCPCに回される。にもかかわらず、多くの症例で、剖検所見を丁寧に掘り起こしていけば、経過中は予想できなかった意外なストーリーに出会うことができる。今回の症例は、悪性リンパ腫の経過中に黄疸が出現し、敗血症に至った症例である。胆管閉塞はしばしば胆管炎を伴い、これが敗血症の原因となることも少なくないのだが、今回は少し違った・・・

臨床経過

2型糖尿病、両側内頚動脈閉塞症、陳旧性脳梗塞にて当院通院中であった80歳台後半の男性。某年7月頃から食思不振が持続し、活動性の低下と数ヶ月で5 kgの体重減少を認めたため、同年12月に胸腹部単純CTが施行された。縦隔と腹腔内に多発性リンパ節腫大を認め、また血液検査では肝胆道系酵素の上昇、中等度炎症反応、可溶性IL-2受容体高値を認めたため、悪性リンパ腫と、またそれによる総胆管狭窄が考えられ、精査加療のため入院となった。入院時の血液検査結果(表1)と、第2病日での胸腹部造影CT(図1)を示す。

第8病日にエコーガイド下に左鎖骨上リンパ節の生検を行った。

第9病日より、診断的治療を目的にメチルプレドニゾロン 250 mg/dayを3日間投与した。

第10病日、全身性の黄疸が出現した。血液検査では、肝胆道系酵素に大きな変化はなく、炎症反応も目立たなかったが、総ビリルビン 5.7 mg/dl(直接ビリルビン 4.3 mg/dl)が大きく変化していた。超音波検査でも、総胆管と肝内胆菅の拡張を認め、総胆管の腫瘍性狭窄が進行したものと考えられた。翌日ERCPを行い、狭窄を確認し、膵管と胆管にドレナージチューブを挿入した。処置後は順調にビリルビンの低下がみられた。(ERCP施行後6日目の第16病日には、総ビリルビン 2.6 mg/dlまで低下した。)

第18病日、喀痰量の増加と、軽度coarse crackleを聴取した。ポータブル胸部X線検査(図2)にて胸水貯留による肺野全体の透過性の低下を認めたため、体液貯留傾向と判断し、フロセミド20 mg/dayの投与を開始した。

 その後、全身状態は小康状態であったが、第20病日に呼吸困難と喘鳴を訴えた。血圧:142/55 mmHg、心拍数:102 bpm、SpO2:70台、体温:36.0度であり、右下肺野でwheezeを聴取し、末梢冷感と下腿浮腫が著明であった。リザーバー付き酸素マスクで10 L/分の酸素投与を行った。また多量の膿性喀痰が吸引され、これらの処置によりSpO2は90台前半まで上昇した。その後血液検査と血液ガス測定(表2)、胸部X線写真では、胸水を認める以外、肺炎を示唆する浸潤影等は認めなかった。血液ガスでは呼吸性アシドーシスを認め、代償性反応は適切な範囲であった。乳酸の貯留は認めたが、酸塩基平衡障害は呼吸性アシドーシス単独と考えられた。血液検査での肝胆道系酵素の再上昇と白血球数の著しい増加から、ERBDチューブの閉塞等による急性閉塞性胆管炎が疑われ、セフェム系抗菌薬CTRX 2 gを分2、DOA(適宜流量調整)にて投与開始した。しかし、第21病日に意識レベルの低化を認め、循環動態と呼吸状態の改善なく、翌第22病日にVFを経て心停止となった。同日、死因の検索のため、遺族の同意を得て病理解剖を行った。

なお、リンパ節生検の組織診断は死亡後に確定した。HE染色では、大型で核小体の目立つ腫瘍細胞が比較的均一に増生しており、サイトケラチン陰性、ビメンチン陽性、CD20陽性、CD79陽性、CD3陰性であったことから、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)と診断された。

病理解剖所見

病理解剖は死後約9時間で行なわれた。腹水は325 mlで黄色混濁、胸水は左右それぞれ450:400 ml、黄色透明であった。膵周囲から大動脈周囲、肺門を中心に、多数の腫大リンパ節を認めた。脾臓は180 gで、割面に結節性病変を多数認めた(図3 A, B)。膵周囲リンパ節と脾臓の結節が最大で径6 cmまで、次いで右肺門の径5 cm、その他大動脈周囲、腸間膜、肝門部にも結節を認めたが、径2 cmまでであった。組織では、結節の中心部が広範に壊死していた(図3 C)。腫瘍細胞はしばしばCD20陽性、核はびまん性にEBER陽性で、EBウイルス関連Bリンパ増殖症EBV+ B-cell LPD (lymphoproliferative disorder) 1)と判明した(図3D)。この疾患にはlarge cell (DLBCL)型とpolymorphous LPD型があり、予後は前者の方が悪い。本例はDLBCL型であった。

総胆管や膵頭部では(図4 A)、臨床的に考えられたチューブトラブルを含めた総胆管の閉塞はなく、また総胆管に炎症所見を認めなかったため、化膿性胆管炎は否定された。一方で膵頭部に膿の貯留がみられた。組織では、膿がポケット状になった腹腔の一部に貯留していた(図4 Bの小矢印)。肉眼的な膿は、この化膿性腹膜炎が主体で、一部に膵周囲の脂肪壊死に近接あるいは混在して膿瘍もみられ(図4 B, Cの大矢印)、これらは急性膵炎に続発したものと考えられた。

膵では腫瘍細胞のリンパ管侵襲とリンパ管の拡張が目立ち、実質内浸潤部では比較的大きな壊死巣が見られた(図5 A)。胆管壁、動静脈壁にも強い浸潤(図5 B, C)がみられた。後腹膜では、副腎や左腎被膜にも浸潤が及んでいた。

肝臓は1380 gと軽度の重量増加を認め、表面には微小白色結節が散在していた(図6 A)。組織では、これらの結節は門脈域と無関係に散在する微小膿瘍であり、血行性感染と考えられた(図6 B, C)。肺や脾臓にも同様の化膿性の小病変を認めたことから、敗血症が存在し、それは膿瘍形成を伴っていた急性膵炎に起因すると考えられた。さらに心臓と副腎には限局性の微小壊死を認め、局所的な微小循環不全が示唆された。敗血症による血液凝固異常によると考えられた。

肺重量は左右それぞれ360:780 gで、右肺にうっ血水腫が目立った。これは右肺門の腫大したリンパ節が右肺静脈を圧迫した結果と考えられ、胸部X線写真での右の肺紋理増強と対応している。両側肺の多数の気管支内に好中球が充満する像を認め、広範囲な化膿性気管支炎であった。一方、肺炎は顕微鏡的な小結節状で、細気管支との連続性がなく、上述のように、敗血症による血行性感染と考えられた(図7)。

心臓は320 gと正常重量で、左室に異常所見はなかったが、右室が拡大していた。三尖弁の弁口幅の増加がなかったことから、急性に右室が拡大した(急性右心不全)と考えられた。肝臓でも小葉中心性に類洞の拡張、またその周囲の肝細胞の脱落と胆汁栓を認め、急性うっ血肝による虚血の所見であった(図6 C)。腎臓でも皮質、髄質ともにうっ血を認めた。これらの所見から、多発性気管支炎による換気低下により低酸素性の細動脈収縮が生じ、それによる肺高血圧→急性右心不全→体循環のうっ滞という病態が考えられた。

考察

この症例では、生検診断が生前に確定せず、死後にDLBCL、その後EBウイルス関連Bリンパ増殖症のDLBCL型と判明した。高齢であること以外に明らかな免疫不全が背景に無いことが免疫不全関連EBV陽性Bリンパ球増殖症との違いである。病期は、腫瘍が横隔膜の両側に及び、後腹膜への節外進展を伴うStage IIIEであった。DLBCLは多様な病型を含むため、病期だけでは予後が推定できないことが知られているが、EBウイルス陽性であると予後最悪のリンパ腫の一つとなる。この疾患は最近、EBV positive DLBCL of the elderlyとしてWHO分類に追加されたばかりである2)。

悪性リンパ腫で腫大したリンパ節の中心部に壊死が見られることはまれではないが、広範な壊死を伴う悪性リンパ腫は非常に珍しい。この症例では、リンパ節内の広範な壊死が第2病日の造影CTでも見られた(図1)ので、この壊死は死亡直前の心不全などによる循環障害によるのではなく、腫瘍の性質を反映しているものと考えられる。剖検所見では、この腫瘍は局所浸潤性が高く、膵胆管近傍では、膵実質や胆管壁だけでなく、動静脈壁にも周囲からの強い浸潤が見られ、静脈内には腫瘍細胞が充満している像も見られた(図5 B)。しかし、全身の小血管内にリンパ腫細胞がみられるintravascular lymphomaの像は見られなかった。強い脈管侵襲を伴う広範な虚血性壊死は、まさにEBウイルス関連DLBCLの特徴であった1,2)。

この症例のリンパ腫では、あたかも癌のように、胆管や血管、膵臓に対して強い局所浸潤性を示した。リンパ腫によって閉塞性黄疸が起こること自体、かなり珍しい3-5)。その場合でも腫大リンパ節による圧迫が多いことが画像上胆管癌との鑑別の手がかりになる6)。しかしこの症例のように、リンパ腫細胞が局所浸潤性を示し、胆管癌との鑑別が困難な症例も報告されている7)。

膵に発生したリンパ腫で急性膵炎が起こることはあるが、リンパ腫細胞の二次的な浸潤によって急性膵炎が起こることは極めて珍しい8-10)。この症例では膵実質の壊死巣近傍に強い血管およびリンパ管の侵襲があったこと(図5 B)から、膵臓の壊死にも腫瘍の脈管侵襲による虚血が関与していたと考えられる。

この症例では、急性膵炎があったにもかかわらず、血清アミラーゼの上昇がみられなかった。急性膵炎で(特に膵でのアミラーゼ産生の低下したアルコール多飲歴のある患者で)アミラーゼが上昇せず、剖検で初めてその存在が分かることもまれではない11)。また、アミラーゼの血中半減期が10時間と短いことから、急性膵炎発症後3-5日以内に血中レベルは正常化する12)。この症例では、アルコール多飲歴はなく、膵実質はよく保たれていたことから、血清アミラーゼが正常であったのは、その高値を検出できる時期を過ぎていた可能性が高い。この症例のような膵頭部の一部に限局した小さな膵炎では、逸脱酵素が少ないだけでなく、無症状のまま血清アミラーゼ値が正常化した可能性も考えられる。この症例の膵壊死では、脂肪壊死に対する好中球浸潤も見られることから、少なくとも2日以上経過した後、敗血症を伴ったところで発症しために、血清アミラーゼ高値を検出できなかったものと推測される

最後に死亡に至る過程を考える。閉塞性黄疸はERBDで軽快したが、急性膵炎に伴う膿瘍から敗血症に至る一方、腫瘍進展による全身状態の悪化に伴う気道クリアランスの低下により、広範な化膿性気管支炎を生じ、それによる肺高血圧からの急性右心不全と急性呼吸不全が直接的死因になったと推測された。敗血症による循環不全は微小循環レベルでは見られたものの、腎に血流再分布が無かったことから、全身的には表面化しなかったと考えられた。最後に見られた黄疸は、ERBDチューブの閉塞や胆管炎が見られなかったことから、右心不全による肝の小葉中心性虚血と敗血症による代謝的な負荷の増大による肝細胞性黄疸であったと考えられた。これを図示したのが図8である。

まとめ

この症例でみられたEBウイルス関連Bリンパ増殖症は、日本人のDLBCLや大型細胞を含むLPDの4.5%を占め1)、それほどまれではないという。その特徴は組織浸潤性が高いことで、この症例でも、血管侵襲よって腫瘍の広範な壊死、胆管、膵への節外進展によって閉塞性黄疸と急性膵炎をきたしていた。致命的になった敗血症をきたした感染巣が胆管炎ではなかったのは、胆道ドレナージが奏功していたためと考えられ、このことが胆管炎以外のまれなフォーカスから敗血症が起こる余地を与えたともいえるだろう。

文献

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7. 樋田泰浩、加藤紘之、道家充・ほか:長期生存中の閉塞性黄疸発症悪性リンパ腫の1例.胆道9(4): 337-341, 1995.
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12. Vege SS: Clinical manifestations and diagnosis of acute pancreatitis. In: UpToDate, Wolters Kluwer, 2013.

A case died of respiratory failure due to intractable pneumonia associated with latent myocardial infarction and cardiogenic cerebral infarction

Masahiro Tanimoto (1), Tetsuro Koyama (2), Takuzo Nambu (2), Masahiro Yamamoto (3), Hirohito Ishigaki (4), Hiroyuki Sugihara (5)

1) Junior resident, Kohka Public Hospital
2) Department of Internal Medicine, Kohka Public Hospital
3) Central Clinical Laboratory, Kohka Public Hospital
4) Division of Pathology and Disease Regulation, Department of Pathology, Shiga University of Medical Science
5) Division of Molecular and Diagnostic Pathology, Department of Pathology, Shiga University of Medical Science

A male in his late eighties, with a past history of large intestinal cancer, had a fever of 39-40°C at onset. On emergency admission in our hospital, abdominal CT disclosed marked dilatation of urinary bladder, bilateral hydronephrosis and chest shadows, though respiratory symptoms were scarce. After admission, a diagnosis of renal failure due to urinary retention by a prostatic cancer was made because of high PSA level. The renal failure was rapidly improved by urethral catheter insertion, whereas fever and inflammatory signs sustained. Respiratory symptoms were worsened associated with onset of impaired consciousness (JCS200) and reduction in oxygen saturation, when a cerebral infarct of right hemisphere was detected by CT. The patient died of gradual respiratory failure with poor response to antibiotic therapies and continued loss of consciousness. Autopsy revealed thrombotic occlusion at a distal part of the left anterior descending coronary artery and acute and subacute myocardial infarcts associated with organizing mural thrombi in the inferior and anteroseptal regions of left ventricle, which were inferred to cause cerebral infarction. Lungs showed a mixture of pulmonary fibrosis, collapse and organizing pneumonia. Active inflammation had been subsided except in lumina of bronchioles.

【図表】潜在性心筋梗塞による脳梗塞とともに肺炎が遷延化し呼吸不全により死亡した症例

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表1

表1 入院時血液検査所見

図1

図1 入院時の腹部単純CT (A)と胸部CT(B)

図2

図2 入院時心電図。

図3

図3 第8病日の胸部単純X線写真

図4

図4 第10病日の胸部CT

図5

図5 第14病日の胸部単純X線写真

図6

図6 第18病日の頭部CT

図7

図7 肺の所見
A 肺の固定後マクロ像
B 右下葉。前立腺癌の肺転移巣。
C 右下葉。肺線維症。肺胞構造が消失し、線維性肉芽組織に置換され、残存した細気管支が拡張している。
D 右中葉。器質化肺炎。
E 左下葉。化膿性細気管支炎。拡張した細気管支内への好中球の集簇を認める。

図8

図8 冠動脈の所見
A 冠動脈病変のマッピング
B  LAD #8。冠動脈壁の石灰化プラーク、それに隣接する破綻した出血性プラークの一部(矢印)と血栓性閉塞
C 血栓の強拡大。血栓の器質化(矢印)と溶血した赤血球を貪食するマクロファージ(矢尻)。

図9

図9 心筋のマクロ及びミクロ所見
A 固定前の心筋のマクロ像。心尖部前壁から中隔に梗塞がある(矢印)
B 梗塞のマッピング。点線で囲まれた部位が梗塞部。濃いピンク:新鮮梗塞、薄いピンク:亜急性梗塞。矢印は壁在血栓。
C 左室内壁在器質化血栓の付着部。Nは心筋の凝固壊死、Tは器質化した壁在血栓、Gは梗塞巣の肉芽組織。

図10

図10 病態のまとめ

潜在性心筋梗塞による脳梗塞とともに肺炎が遷延化し呼吸不全により死亡した症例

公立甲賀病院 初期臨床研修医:谷本 匡浩
同内科:小山 哲朗、南部 卓三
同検査部:山本 昌弘
滋賀医科大学病理学講座
疾患制御病理学部門:石垣 宏仁
分子診断病理学部門:杉原 洋行


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要旨

大腸癌の既往のある80歳代後半の男性で、39℃台の発熱で発症。本院に救急搬送され、CTで膀胱の著明な拡大と両側水腎症、肺陰影を認めたが、呼吸器症状は無かった。入院後、PSA高値から前立腺癌による尿閉による腎不全と診断され、尿道カテーテル挿入により腎不全は急速に改善した。一方、発熱や炎症所見は軽快せず、入院後に呼吸器症状が増悪、経過中に酸素飽和度の低下を伴う意識障害を発症(JCS200)、CTで右大脳半球の脳梗塞と判明した。意識障害が遷延し、抗菌薬への反応が悪く、徐々に呼吸不全に至り死亡された。病理解剖では、左冠動脈前下行枝の比較的末梢に血栓性閉塞、下壁から前壁中隔に亜急性および新鮮梗塞と、それに伴う器質化した心腔内壁在血栓が見られ、脳塞栓の原因と推定された。肺は、肺線維症、虚脱、器質化肺炎の像が入り混じっていたが、活動性の炎症は肺実質ではほとんど消失し、拡張した細気管支に残存していた。

はじめに

本院では、病理解剖症例の臨床経過と病理所見の両面を詳細に振り返り、CPCで発表する機会が初期研修医全員に与えられている。今回は尿閉の原因探索から始まり、肺病変の増悪が致命的となった症例を取り上げた。病態の臨床的な推定が容易ではなかったが、経過中の強い意識障害の出現や肺病変の増悪の背景に潜在していた病態が、病理解剖により明らかになった興味深い症例である。病理解剖は終末像から振り返るので、経過中に出現した病態の全てが形態的に確認できるわけではない。ここに示すのは、病理所見から振り返って、何が起こっていたのかについてどのように推論を進めたかのプロセスであり、分かったことだけでなく、分からなかったことも示したい。

臨床経過

症例は80歳代後半の男性。某年8月初旬より発熱、全身倦怠感、食思不振が出現した。数日で39℃となったため救急要請し、当院搬送となった。既往歴として、16年前に直腸癌と診断され、切除術後人工肛門を造設された。家族歴に特記すべき事はなかった。来院時の体温は39.2℃、血圧は160/88mmHg、脈拍は84/分、整、呼吸数は16/分、SpO2 95% (自発呼吸, 経鼻酸素2L/分吸入下)、LevineⅢ/Ⅳの汎収縮期雑音を聴取した。呼吸音に明らかな異常はなかった。腹部単純CTで膀胱の著明な拡大と両側水腎症を認め(図1A)、胸部CTでは、中葉・舌区および両側下葉(中下肺野)の末梢領域を中心に小結節が散在性に多数みられ、左下葉は肺炎様であった(図1B)が、呼吸苦や咳嗽など呼吸器症状は無かった。来院時の血液検査所見を表1に示す。心電図は、normal sinus rhythm、1°のAVブロック、完全右脚ブロック、左室肥大の所見であった(図2)。以上から腎後性腎不全、尿路感染症、肺炎の疑いにて即日入院となり、抗菌薬による保存的治療(セフトリアキソン 2 g/day点滴静注)を開始し、血液培養・尿培養を行った。(喀痰培養は痰喀出できなかったため施行できなかった。)

救急外来での尿道バルーンカテーテル挿入により、入院後より尿量3600 mL/dayとなり、腎機能も改善した(BUN/Creは第2病日21.6/1.53 mg/dL、第4病日には11.0/0.70 mg/dLと正常化した)が、発熱は持続し、WBC/CRPも第2病日11400/13.33、第4病日には9800/11.74と持続、漸増が続き、第7病日には抗菌薬をピペラシリン、タゾバクタム合剤に変更しても、第11病日にはWBC 11000/μL、CRP 20.07 mg/dLとなり、発熱も持続していた。この間、入院時CTで前立腺腫大、第2病日にPSA 858.2 ng/mLが判明し、前立腺癌による尿閉と診断、第3病日に前立腺癌加療のため泌尿器科へ転科した。第7病日に来院時の血液培養がStaphylococcus aureus(MSSA)陽性と判明した。第8病日に胸部単純X線で両側広範囲のすりガラス陰影が見られ(図3)、第10病日から呼吸苦が出現。同日の胸部CTで両肺びまん性陰影両側胸水からARDSが疑われた(図4)。夕刻より呼吸状態は急速に悪化したため、敗血症から二次性のARDSを起こしたものと考え、抗菌薬をメロペネム、アシスロマイシンに変更し、免疫グロブリン投与、ステロイドパルスを開始、第11病日に内科へ転科した。

転科時、意識は清明、体温36.0℃、SpO2 95-98%(リザーバーマスクで酸素2L/分吸入下)、血圧104/71 mmHg、肺の聴診では左優位にcoarse crackleを認めた。処置の変更でも呼吸状態は改善せず、転科翌日よりMRSA肺炎の可能性も考えて、バンコマイシンを追加したが、なお呼吸状態が悪化し、同日夜にSpO2が60-70%台に低下し、第13病日には意識レベルの低下(JCS 200)が見られた。第14病日の胸部単純X線で心拡大と胸水および両側広範囲の浸潤影が見られた(図5)。第15病日より徐々に呼吸状態が改善し、第16病日のCTRは50%強に回復、第17病日には1L/分の酸素マスク下でSpO2が97-98%まで改善した。第18病日には頭部CTでは右MCA領域に広範囲にlow density area (LDA)を認めた(図6)。この状態の悪化のエピソードにやや遅れて、DICが第18病日に一過性に捉えられている。第14病日でもFDP/D-dimerが53.3/60.6 μg/mLと高かったが、血小板30.4 x104/μL、フィブリノゲン253 mg/dLは正常であった。第18病日にFDP/D-dimerが150.7/89.7と更に高値を示すとともに、血小板7.4 x104/μL、フィブリノゲン58 mg/dLと低下し、DICのパターンとなったが、第32病日にはこの低下は見られず、FDP/D-dimerも57.1/42.6 μg/mLと第14病日の値にほぼ戻っていた。間質性肺炎や血管炎の可能性を考慮し、各種自己抗体、ANCA、KL-6を測定したがすべて陰性または正常範囲内であった。喀痰培養でStenotrophomonas maltophiliaが検出され、その感受性検査結果を踏まえて、第18病日よりシプロフロキサシンへ変更、第28病日にβ-D-グルカンの上昇(13.6 pg/mL)が検出され真菌性肺炎の可能性を考慮してホスフルコナゾールを追加、第34病日にはステロイドパルスも追加したが、呼吸不全が進行し、第36病日に死亡を確認した。

病理解剖所見

病理解剖は死後1時間30分で施行され、開頭は許可を得られなかった。有意な腹水は認めず、胸水は左/右それぞれ420/550 mLで黄色、混濁していた。

前立腺の腫瘍は低~中分化腺癌(Gleason score: 5+4)で、左葉を中心に径約5cmの腫瘤を形成し、壊死巣も少なくなかった。周囲のリンパ管や静脈をしばしば侵襲し、精嚢にも及んでいた。転移は右副腎に最大径2 cmの転移、肺の中葉、両側下葉に、径1-2 mmの転移が多発性に見られた(図7B)。

腎臓は左/右:150/125 gで、水腎症、腎盂腎炎は認めず、皮髄境界明瞭で、ミクロで髄質のうっ血を認め、最後に急性循環不全の状態であったと考えられる。また、膀胱や腎盂の粘膜にも炎症は見られなかった。

肺重量は左445 g、右530 g、外観は暗赤色であり肺うっ血の所見を呈していた(図7A)。貯留胸水は左420 mL、右550 mLでいずれも黄色混濁であった。両肺ともにうっ血、肺線維症(図7C)、器質化肺炎(図7D)、虚脱、急性細気管支炎(図7E)の像が混在していた。好中球を主体とした活動性の炎症は、肺実質ではほとんど消失しており、肺胞内線維化を示す器質化肺炎の像がしばしば見られた。下葉では、肺胞構造の線維化による置換が強く、長期にわたる肺障害が示唆される所見であった。硝子膜は見られなかった。

心臓は重量395g、心嚢液は少量、淡黄色であった。前下行枝の比較的末梢(#8)に血栓性閉塞を認め、右冠動脈の末梢(#3)にもプラーク内出血を伴う狭窄が見られた(図8)。#8の血栓は石灰化した壁に付着しておらず、赤血に富む赤色血栓であることから、プラーク破綻の下流側であるが、破綻した出血性プラークの一部が壁に含まれている(図8B矢印)。左心室のマクロでは、心室中隔および前壁、下壁に出血を伴う心筋壊死像を認めた(図9A)。下壁近傍の梗塞部は、壊死心筋の処理が進んだことによって、壁がやや菲薄化し、側壁が代償性に肥大していた。その菲薄化した部分に壁在血栓が付着していた(図9B)。ミクロでは、亜急性および急性の2段階の心筋の壊死とその処理過程が識別できた(図9C)。亜急性の病変は左室後壁にも見られ、右冠動脈(#3)の狭窄に対応していると考えられた。

心筋の壊死にいたる時間経過と壊死の処理から瘢痕にいたる時間経過は一般的には次のようにいわれている1)。形態的に凝固壊死が認識できるのは18-24時間後であり、その後72時間までは好中球浸潤が見られ、好中球によって破壊された液状化した細胞の崩壊産物は4~7日目にマクロファージが処理する。7日から10日で肉芽組織に置き換わり、更に膠原線維からなる瘢痕に変わるのに細胞死後約1ヶ月かかる。この症例の亜急性の部分は肉芽組織による置換がほぼ完了しているが、まだ膠原線維は乏しいので、細胞死後約2~3週間と考えられる。急性の部分の壊死は完成しているものの、好中球浸潤が見られないので、細胞死後1日程度と考えられる。

肝臓/脾臓は955/85 gで、軽度のうっ血のみ。ミクロでは肝に小葉中心性のうっ血と小滴性脂肪変性が見られた。

考察

剖検所見から、前立腺癌は、無治療の転移性の進行期にあり、壊死が目立ち、広範な脈管侵襲を伴っていた。前立腺癌が、経過中存続した凝固・線溶系の亢進の原因になった可能性がある。また、経過中出現したARDS様の病変は、前立腺がんに伴うDICによるものであったかもしれない。他にDICの原因となる可能性のある敗血症については、微小膿瘍など、それを示す所見は剖検時には見られなかった。敗血症が存在していたとしても治癒していた可能性が高い。

まず、剖検で明らかになった心筋梗塞について、その発症時期、原因について考えてみる。左心室の中隔から前壁、下壁にかけて存在した梗塞巣に接して、器質化過程にある(血管および線維芽細胞がフィブリン内に侵入した)壁在血栓が見られた。壁在血栓は、前壁から心尖部の比較的大きな梗塞(特に心室瘤を形成するもの)に伴うと報告されており、今回は心室瘤の形成はないものの、壁の菲薄化が見られ、部位的にも合致する。この部位は心血流の乱れが強いところであり、血栓ができやすいといわれている2)。また、血栓のできる時期は、心筋梗塞後、2週間以内(medianは5-6日)と言われており2) 、24時間以内にできるものは、その27%であるという報告もある3)。抗凝固治療を行なわなかった場合、塞栓症のリスクは10-15%、発症はほとんど3-4か月以内といわれている2)。

器質化過程において、この血栓内のフィブリンはまだ吸収されておらず、このような像を呈するのに1~4週間かかったと考えられる。呼吸苦から意識障害に至る第10~13病日のエピソードは死亡の約3週間前であったので、血栓が形成されたのはこのエピソードの時と考えて矛盾しない。実際、FDPとD-dimerはもともと高かったが、このエピソードの直後に更に高値を示した。これは血栓形成の直後に線溶系が反応したものと理解できる。この時間経過は、心筋梗塞巣の組織を評価して推定される梗塞の経過時間ともほぼ一致する。漿膜下から内膜下まで、ほぼランダムに点在する梗塞巣は、壊死心筋がほぼ消失し、ほとんど(ヘモシデリンを貪食したマクロファージを含む)肉芽組織に置換されていた。そして器質化血栓に接していたのは、このような肉芽組織であった(図9C)。この亜急性の梗塞巣の一部に、(凝固壊死は完成しているが、好中球反応もまだ起こっていない)新鮮な梗塞(心筋細胞の死後1~2日)も見られた。これは、一回目の梗塞で生き残った心筋が、おそらく死亡前日に増悪した低酸素血症により、壊死に至ったと考えられる。最後に比較的急に低酸素血症または循環不全があったことは、肝の小葉中心性のmicrovesicularな脂肪変性や腎の血流再分布の存在からも裏付けられる。

左前下行枝の比較的末梢(#8)に見られたプラークの破綻部を閉塞している血栓は、フィブリンが一部器質化し、赤血球の溶血と泡沫マクロファージによる溶血した血球の貪食像が見られる(図8C)。つまり、この血栓は、壁在血栓の器質化や心筋梗塞の処理過程と同じくらい古いことから、これこそが、梗塞の原因であった可能性が高く、臨床経過中に認めた脳梗塞の原因が心原性の脳塞栓であることを示唆している。

これらの梗塞は、臨床的にはサイレントであった。心筋梗塞であった人の発症症状については、約1/3(高齢者の女性で糖尿病患者が多い)が胸痛を訴えず、呼吸困難や嘔気・嘔吐、失神などのみを訴えていたという報告もある4)。入院時の心電図検査を見直すと、T波の逆転が一部に見られたが、典型的な心筋梗塞の所見ではなかった。そのため、入院経過中も心臓機能に関する積極的な検査は行なわれていなかった。心電図で所見の無い心筋梗塞はまれではなく、結果的に心筋梗塞であった場合でも、最初の心電図で診断できなかったのが45%という報告もある5)。このように心筋梗塞が潜在性であった原因の一つは、梗塞部位が下壁に主座があったこと、また代償性変化も顕著に起こっていたことから、心不全症状が目立たなかったためと考えられる。しかし逸脱酵素が上昇しなかったのは、不思議である。ST上昇型の梗塞ですぐにreperfusionが起こるタイプはCPKのようなマーカー酵素の上昇が見られないという過去の報告もあるが、マーカーとしてトロポニンを使うと、ST上昇型でも陰性例はほとんどなくなるという6)。今回の症例も、トロポニンを検査しておれば、その上昇が検出できたかもしれない。

この症例でplaque ruptureを起こし、心筋梗塞を起こしたのは、肺の炎症の増悪による(肺からサイトカインに富んだ血液が心臓を環流することによる)二次的なplaque ruptureや広範な肺炎による低酸素血症の結果ではないかと考えられる。実際、第10病日に両側のスリガラス陰影が出現し(この時のCTRは50%強と心拡大はminimal)、ステロイドパルスを開始したにもかかわらず翌日の夜にはSpO2が60-70%に低下し、第13病日には意識障害が来ている。つまり、ARDS様の陰影の出現(による低酸素血症?)をきっかけに、心筋梗塞を発症し、CTRが60%強に増加し、肺水腫により低酸素血症が更に増悪するとともに、引き続き脳塞栓に至ったと推定される。

この症例の直接の死亡原因として考えられるのは呼吸不全である。来院時、間質影(肺線維症)と肺炎様の陰影が両側下葉胸膜下に存在し、それが増悪、遷延化し、器質化肺炎となり、胸水による虚脱も加わり、機能のある肺組織が著しく減少したと考えられる。この徐々に増悪に向かう経過中に2つの可逆的な像が出現していた。一つは、第10病日の呼吸苦に伴い出現した両側のスリガラス陰影であり、これは最終的にはステロイドパルスによって消失し、剖検時には硝子膜は見つからなかったが、上述のように、ARDSが一過性に起こったものと考えられる。もう一つは、第13病日の意識障害の発症に伴う心拡大と肺門部陰影の増強である。上述のように、この時に心筋梗塞を発症し、急激に左心不全が起こったと推定される。

次の問題は、なぜ肺炎が遷延したのか、である。剖検所見からは、感染は抗菌薬による治療でかなり制圧できていたと考えられ、最後まで残っていたのは、急性細気管支炎、器質化肺炎と肺線維症であった。後二者はステロイドパルス等で活動性の炎症を抑えたが故に、マクロファージの機能低下をきたし、液化した炎症性細胞崩壊産物やフィブリンなどの滲出物がうまく処理できず、線維化に至ったことが考えられる。これは炎症制圧の代償ともいえる変化であり、この変化を回避することは現時点では困難といわざるを得ない。広範に見られた急性細気管支炎は、意識障害により口腔内分泌物の誤嚥や喀痰排出困難の増悪によると考えられ、これによる気道閉塞が、残存した肺への換気を低下させ、致命的になったと考えられる。

今回の脳梗塞巣が遷延する意識障害を起こすほどのものであったかどうか、CPCでは議論になった。画像上の変化以上の組織の変化が脳にあったのかどうかは、脳の病理組織検索ができなかったことから、不明のままである。しかし、今回の症例では心臓に壁在血栓が存在することで多発性の脳梗塞も起こりうるため、一時点の画像ではわからない、CT撮影後に病変が付加した可能性は考えておくべきであろう。

まとめ

この症例の最も大きな問題であった、急激な呼吸状態の悪化の原因に、潜在性に発症した下壁に近い前壁中隔梗塞が関わっていたと考えられる。急性心筋梗塞による肺水腫によって肺機能が低下する一方、心腔内壁在血栓形成から心原性の脳梗塞を来たし、意識障害により呼吸状態を更に増悪させたと考えられた。このような難治性肺炎との困難な闘いではあったが、多種の抗菌薬等により、細気管支炎以外の活動性の炎症は一応終息に導くことができたようである。過剰な炎症による組織破壊をステロイドパルス療法で抑えることは必要ではあったが、肺炎の治癒機転を障害し、肺炎を器質化させるジレンマに行き当たったこともまた回避しがたい状況であったと考えられる。

文献

1. Robbins Basic pathology, Kumar V, Abbas AK, Aster JC eds. Elsevier Saunders, Philadelphia, 9th edition, pp. 377-381, 2013.
2. Greaves SC, Zhi G, Lee RT, et al. Incidence and natural history of left ventricular thrombus following anterior wall acute myocardial infarction. Am J Cardiol 80: 442-448, 1997.
3. Küpper AJ, Verheugt FW, Peels CH, et al Left ventricular thrumbus incidence and hebavior studied by serial two-dimensional echocardiography in acute anterior myocardial infarction: left ventricular wall motion, systemic embolism and oral anticoagulation. J Am Coll Cardiol 13: 1514-1520, 1989.
4. Canto JG, Shlipak MG, Rogers WJ, et al. Prevelence, clinical characteristics, and mortality among patients with myocardial infarction presenting without chest pain, JAMA 283: 3223-3329, 2000.
5. Pope JH, Ruthazer R, Beshansky JR, et al. Clinical features of emergency department patients presenting with symptoms suggestive of acute cardiac ischemia: a multicenter study. J Thromb Thrombolysis 6: 63-74, 1998,
6. Vasile VC, Babuin L, Ting HH, et al. Aborted myocardial infarction: is it real in the troponin era? Am Heart J 157: 636-641, 2009.

【図表】アルコール多飲歴があり低ナトリウム血症を来たして入院後急死した症例

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表1

表1

図1

図1: 入院時の胸腹部CT。A.胸部で心肥大が見られる。B.腹部で肝実質のdensityが肝内の血管、大動脈や脾臓のdensityよりも低い。

図2: A. 心臓の割面。心外膜が脂肪で著明に肥厚し、左室内膜下の心筋が蒼白である。B. 組織標本のルーペ像。両室拡大、右室壁の脂肪浸潤が強い。C. 心内膜下では、心筋の萎縮と筋線維間の線維化が見られる。アザン染色。

図2: A. 心臓の割面。心外膜が脂肪で著明に肥厚し、左室内膜下の心筋が蒼白である。B. 組織標本のルーペ像。両室拡大、右室壁の脂肪浸潤が強い。C. 心内膜下では、心筋の萎縮と筋線維間の線維化が見られる。アザン染色。

図3: A. 門脈域(p)と中心静脈周囲(c)との架橋線維化。アザン染色。B. マロリー体(矢印)、C. マロリー体に反応して見られる好中球浸潤。

図3: A. 門脈域(p)と中心静脈周囲(c)との架橋線維化。アザン染色。B. マロリー体(矢印)、C. マロリー体に反応して見られる好中球浸潤。

図4: A. 膵体部の偽嚢胞。B. 脂肪壊死と好中球浸潤。C. 横向きに走る膠原線維腺の上に腺房の軽度萎縮、下に正常の腺房が見られる。

図4: A. 膵体部の偽嚢胞。B. 脂肪壊死と好中球浸潤。C. 横向きに走る膠原線維腺の上に腺房の軽度萎縮、下に正常の腺房が見られる。

図5A-D
図5E-F図5G-H

図5: A、B、E、Gが本症例、C、D、F、Hが年齢の近いコントロールの乳頭体(矢印)レベルでの大脳割面。本例の乳頭体(B、E)はコントロール(D、F)と比べると、両側性に萎縮している。Eでは神経細胞のnecrosisも見られた。本例の動眼神経核(G)はコントロール(H)に比べて細胞密度が低下し、神経細胞のcentral chromatolysis(矢印)とglyosis(点線の円)が散見される。

病態のまとめ。

図6: 病態のまとめ。