Intravascular lymphoma の一例

滋賀医科大学 病理学第一講座: 杉原 洋行, 中村 悦子
公立甲賀病院 内科: 西山 敬三
同中央検査室: 山本 昌弘, 辻岡 俊幸

要旨
 75歳男性の剖検症例。糖尿病と狭心症でfollowされていたが、胸痛の増強のために入院。入院時の発熱はその後も持続し、CRP、LDHが増加を続け、腎機能不全、pancytopenia、肺の淡い陰影があった。可溶性IL-2リセプターの高値であったが、ガリウムシンチで腫瘤は検出できなかった。呼吸困難増強、痙攣で頭部CTにより小脳梗塞が見つかるも心肺停止となり、入院後20日の経過で死亡された。剖検では、糖尿病性腎症、hemophagocytosisとともに、肺、心、膵、膀胱、前立腺などの小血管内にリンパ腫細胞を検出、intravascular large B cell lymphomaであった。心、膵に多発性小梗塞、肺には硝子膜形成を伴う虚脱巣が散在していた。開頭はできなかったが、脳病変もこれによるものと推定され、その悪化が死因となったと考えられた。このリンパ腫の臨床診断の難しさとそれにどう対処するかを考察した。


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はじめに
 病理解剖ではマクロ所見でほぼ病態の見当がつくものが多いが、時にマクロではほとんど分からないものがある。その一つがIntravascular lymphomaである。この疾患は小血管内増生を特徴とする特異なリンパ腫で、臨床的に多彩な症状を呈し、それらの症状の原因が不明なまま死に至り、剖検の顕微鏡検索ではじめて診断がつくことも少なくない。今回の症例もそのような一例である。この疾患は、病理学的な検索でも見逃される可能性がある。私たちも、もし可溶性IL2-receptor(sIL-2R)が高値であるという情報がなく、漫然とこの症例を見ていたら、毛細血管の中の腫瘍細胞を見逃していたかもしれないと思う。
 この疾患は以前、neoplastic angioendotheliosis (NAE)と呼ばれていたことからも分かるように、血管内皮由来と考えられていたが、1985年に免疫組織化学でB細胞由来であることが確定した。頻度はまれとされることから、大学の病理学の講義でも教科書でも、この疾患の説明が省かれていることが多い。しかし、実際はそれほどまれではなく、大学病院での剖検の0.1%以上はあると言われている(1)。この疾患では、まずその可能性を念頭に置き、注意深く臨床的な鑑別を行うことが求められる。病理にとっても、注意深い剖検の重要性を実感するには恰好の材料と言える。

症例
臨床経過
 今回の症例は75歳男性で、3年前に糖尿病、糖尿病性腎症、2ヶ月前に狭心症と診断され、近医でfollowされていた。2週間ほど前から胸痛が頻繁となり、狭心症の精査のために入院となった。入院時血圧は176/68 mmHgと高く、入院後も140/70 mmHg前後であった。心電図ではV5-6のST低下がみられたが、ダイナミックシンチで側壁の収縮機能に異常はなく、左室肥大によるものと考えられた。心拡大もなかった。MRAで腹部大動脈(腎動脈分岐部よりも末梢)に狭窄がみられた。腎機能は、Creatinin 3.36 mg/dL, BUN 35.7 mg/dLと低下。カリウムは入院時4.7 mEq/L。第13病日にはCr/BUN: 4.49/91.8、カリウム6.8 mEq/Lと悪化。血小板数は入院時11.8万 /µLと低値で第13病日には6.7万 /µLと減少が続いた。貧血も入院時Hbが10.5 g/dLから第13病日に7.5 g/dLと進行しWBCも2000-3000台と低く、pancytopeniaの状態であった。FDPは増加無く、DICの所見は乏しかった。入院時体温38.6 ℃で、その後も微熱が続き、CRPは入院時3.36 mg/dLから入院後も漸増し、第17病日には約12 mg/dLとなった。LDHも入院時686 IU/Lから増加を続け、同日1200台となった。肺は、左下肺に軽いfibrosis様陰影(CTでは淡い濃度上昇)、右S6にスリガラス影がみられた。抗生剤の投与により、後者は死亡直前のCTでは消えていた。
 第11病日に黒色便。第13病日にsIL-2Rが5700 U/mLと高値であったため、ガリウムシンチを行ったが腫瘤はみつからなかった。また同日のPO2は52.8 Torrと低下、PCO2は36.6 Torrと正常であった。第16病日に(PO2は72-80 Torr、PCO2は30-40 Torrにもかかわらず)呼吸困難が増悪、意識レベルが低下し、痙攣もみられるようになったため、頭部CTを撮ったところ、右小脳半球にlow density areaがみられ、梗塞と考えられた。呼吸困難に対して翌日よりステロイドパルスを行うも、第18病日に心肺停止となり翌々日に死亡。ステロイドパルス後、血小板、白血球はある程度回復したが、赤血球はほとんど回復しなかった。
病理解剖所見
 どこかに感染巣があったのか、血栓症のような病態があったのかなどの問題点を明らかにするために、ご遺族の承諾を得て、死後3時間後に病理解剖が行われた。剖検所見を図1-1,図1-2にまとめた。
 臨床所見にどのような解剖所見が対応したのかを順に見ていこう。まずSIL2Rが高値であったこと、発熱、CRPやLDHの高値に対応する病変として、肺、気管、膵、心、前立腺、膀胱、大動脈と左鎖骨下動脈のvasa vasorum、などの血管内にリンパ腫細胞が見られた(図2)。Immunophenotypeは、免疫組織化学でCD20+, CD79a+, CD3-、形態では大型核をもっていたため、intravascular large B cell lymphomaと診断できた(図3)。一部で血管周囲の結合組織内での腫瘍細胞の増生もみられたが、腫瘤形成はみられなかった。開頭の許可が得られなかったので、脳の検索はできなかったが、小脳病変も血管内リンパ腫細胞による梗塞の可能性が高い。また炎症としては、急性化膿性気管支炎と回腸に虚血性腸炎がみられたが、前者は挿管の後に生じたと考えられ、後者も壊死の形態から死亡の1日程度前に生じたと推定されたので、これらで入院時からあった発熱やCRPの高値を説明することはできない。
 次に腎機能低下に対応して、典型的な糖尿病性腎症の糸球体病変(結節性病変やfibrin cap)が見られた(図4)。腎は左右とも約100 gと軽度萎縮していた。腎機能が悪化したのは、腎前性の原因(呼吸循環不全)が重なったためと考えられる。ただし、急性尿細管壊死や尿細管の変性はみられなかった。
 狭心症に対しては、心重量は360 gと(腎性の高血圧を反映して)軽度から中等度肥大していた。冠動脈硬化は軽度で、高々30-40%の狭窄が見られただけであったが、組織では血管周囲に線維化の目立つ、atherosclerotic heart diseaseのパタンがみられた。図5に示すような小さな梗塞巣がくり返し生じたこともこの線維化に関与していた可能性がある。図5の梗塞巣は、壊死がマクロファージによってほぼ吸収され、線維化の起こり始めた時期で、壊死後4-10日と推定される。このような微小な梗塞の原因は、小血管内にリンパ腫細胞がみられたことから(図5b)、リンパ腫細胞による微小循環不全と考えられる。またこのような病変がvasospastic anginaを来たした可能性もある。
 肺病変は、右下葉の陰影に関しては抗生剤治療により消失した。これに対応する病変として、右下葉の隣り合ったいくつかの肺胞にmacrophageが充満したfocusがみられた(図6)。これは、肺炎の好中球が吸収され、macrophageがそれに置き換わったものと考えられる。また、線維化様の陰影に対応した病変として、硝子膜形成を伴った肺胞がcollapseを起こした病変(図7)が、左肺の上下葉、右中葉にpatchyに分布していた。両肺の肺胞毛細血管から比較的大きな血管に至るまで、内腔にしばしば異型リンパ球がみられたことから、これによる肺胞の虚血が硝子膜形成や(surfactantの不足による)虚脱巣を形成したものと推定される。更に、第18病日に起こった突然の心肺停止には、小脳梗塞以外に更に多発性脳梗塞が加わることによる中枢性の機序が考えられる。
 Pancytopeniaに関しては、脾臓でhemophagocytosis(図8)がみられた。ステロイドである程度軽快したことも、これがpancytopeniaに関わっていたと考えて矛盾しない。大動脈弓部、腹部の動脈硬化性大動脈瘤内の血栓にもリンパ腫細胞がみられた。この血栓によって、血小板の消費が亢進し、慢性のDICが存在してもよい状況であるが、臨床的にも、病理学的にも(微小血栓が見つからず)DICとは診断できなかった。
その他、臨床的には症状が無かったが、膵臓と肝臓に微小梗塞があった。これらも血管内リンパ腫細胞による微小循環障害で生じたと考えられる。
このように、全身の臓器に循環障害による症状がみられる本疾患では、循環障害の原因はリンパ腫細胞の血管内うっ滞であるが、同様の症状が全身性に生じた血栓によっても起こり得る。臨床担当医は、大動脈瘤にできた大きな血栓や感染が引き金になって凝固障害が起こった可能性を考えていたが、DICの基準を満たさなかったのでTTPの可能性も検討していた。

考察
 臨床的にこの疾患に対処するためには、その存在を知って、疑いがあればsIL-2Rを測ることが診断につながる。この症例では、sIL-2R高値に気づき、ガリウムシンチを行って、腫瘤が無かった時点でintravascular lymphomaを疑うことはできたと思う。このsIL-2Rは、しかしながら、悪性リンパ腫以外でも、特に膠原病などで高値(正常 < 400 U/mLのところ、1000 U/mL以上)となることがあるので注意を要する。(逆に、明らかなリンパ腫でも3000 U/mL程度のことがある。)したがって、この疾患が疑われれば、生検によって診断を確定しなければ治療を開始することはできない。このリンパ腫で侵されやすい臓器としては、頻度の高いものから、中枢神経(100%)、腎(80%)、肺(80%)、心(67%)、皮膚(60%)などである(1)。もし皮膚病変(小結節性の皮疹)があれば、生検によって診断が確定できる可能性は高いが、皮膚以外ではrandom biopsyのような形になり、病変に当たる確率はそんなに高くないのが難しいところである。
 このリンパ腫で不思議なのは、リンパ腫細胞がほとんど血管内にみられ、リンパ節腫大がみられないことである。これに関しては、最近、腫瘍性のB細胞からhoming receptorが失われることにより、再循環中のB細胞が血管外に遊出できず、血管内に蓄積することがわかってきた(2)。再循環そのものはリンパ球として持っている正常の機能である。しかし、血管内のB細胞には増殖の機会が無いので、どこかのリンパ節の胚中心で腫瘍化してから、全身を再循環する成分が優位となり、上記の理由で血管内に蓄積したと考えられる。そして、約半数の症例で更に進展して血管外増生を伴うようになる(1)。多発性骨髄腫の場合もこれと似た状況である。どこかのリンパ節の胚中心でB細胞が腫瘍化してから、リンパ節は腫大せずに骨髄内で形質細胞に最終分化・成熟するコンパートメントが優位となり、あたかも骨髄転移するように骨髄内に多発病巣を作ることがわかってきた(3)。
 またこのタイプのリンパ腫が白血化した(末梢血中に異型リンパ球が検出された)という報告(4)はあるが、まれである。白血化する前に死に至ることが多いためと考えられる。このリンパ腫では、腫瘍細胞は血管の中にあるが、血管壁にへばりついていて、流血中を流れているのはごくわずかである。一般にこのタイプのリンパ腫が極めてaggressiveで、急な経過で死に至ることが多いのは、腫瘍の生長の場が血管内という、細胞の生存のためには恵まれている(したがって細胞のlossが少ない)が、極めて限られた空間であることと関係しているように思われる。

参考文献
1. 森 茂郎. Angiotropic lymphoma. 病理と臨床12 (臨時増刊): 154-156, 1994.
2. Gatter KC, Warnke RA. Intravascular large B cell lymphoma. World Health Organization classification of tumours. Pathology and genetics of haematopoietic and lymphoid tissues (Jaffe ES, Harris NL, Stein H, Vardiman JW eds.), IARC Press, pp.177-178, 2001.
3. Kuehl WM, Bergsagel PL. Multiple myeloma: Evolving genetic events and host interactions. Nature Reviews/Cancer 2:75-187, 2002.
4. Khoury H, Dalal BI, Nantel SH. Intravascular lymphoma presenting with bone marrow involvement and leukemic phase. Leuk Lymphoma 44:1043-1047, 2003.


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